2-3.トラウマ、PTSD、適応障害と強迫

目次
1)トラウマ(心的外傷)とは
2)ストレスとは
3)疾患
4)PTSD症状
5)トラウマ・ストレス関連疾患とOCD
6)PTSDの診療

1)トラウマ(心的外傷)とは

生命を脅かされるような出来事、性的な暴力などによって、精神的な衝撃を受けた体験(外傷体験)をしために、これらの出来事・危険が去っても、精神的な不調が、心の傷となり、長期間、残り続けるものです。

出来事は、診断基準(DSM-5)[1]では、次のように定義されています。(7歳以上)
暴力的、偶発的なこと(例:暴力犯罪、性的暴行、ドメスティックバイオレンス(DV)、虐待、テロ、戦争、災害など)によって、
死にそうになる、
重傷を負う、
性的暴力を受けること

1)直接、体験する。
2)他人に起こった出来事を直に目撃する。
3)近親者、親しい友人が遭遇する。
4)警官や遺体収集作業員などのように職業で、そのような強い不快感を抱くものに極端に曝露される。(不快感を抱くものには映像を見ることも含まれるが、仕事に関連した業務でないと適応されない)

このような体験に出合えば、誰もが不安、恐怖、緊張などの精神・身体の不調を感じます。しかし、危険な出来事から十分離れていると、そのような不調が、何日もたつうちに、自然に和らいでいくといいのです。そのような症状が、1カ月以上たっても改善しないと、問題となります。

2)ストレスとは

ストレス・・・生体に有害な影響を与えるものにさらされたことで生じる変化(ひずみ)。
ストレッサ―・・・ストレスをもたらすもの。

PTSDや適応障害などの精神疾患では、自分の外からもたらされたストレッサーがきっかけとなって発症します。
例:暴力、対人関係(ハラスメント、いじめ)、災害・事故、など

・トラウマの診断基準に当てはまらない出来事であっても、強いストレスにさらされると、トラウマに似た反応・症状が現れることがあります。
しかし、強い口調で怒られた、人前ですごく恥ずかしい体験をしたなど、トラウマの診断基準に当てはまらない出来事ではPTSDとは診断できません。

3)疾患

トラウマ・ストレスに関連する精神疾患には、次のものがあります。[1]

疾患名概要
心的外傷後ストレス障害(PTSD)上記のトラウマとなる出来事のうち、PTSDの診断基準に当てはまるのは、自分もしくは他人の命にかかわるものか、その反応が強い恐怖、戦慄、無力感を伴うものです。出来事の後、下記のPTSD症状が、1ヶ月以上続いた場合。
急性ストレス障害(ASD)PTSDと共通した症状の他、解離症状(離人症、解離性健忘)が現れることがあります。外傷直後から、2日間-4週間持続した場合。
適応障害ストレスが原因となって、3カ月以内に情緒や行動の症状が現れるもの。ストレスとなる出来事が、PTSDやASDのように命に関わるもの、性的な暴力ではないが、強い衝撃、長期間続いたもの(DV、ハラスメントなど)の場合、適応障害と診断されることがある。

その他に、 複雑性PTSD、アダルト・チルドレン(AC)、機能不全家族という言葉が用いられることがありますが、診断基準で認められた用語ではありません。

4)PTSD症状

診断基準によると、次のB、C、D、Eによる症状が1ヶ月以上続きます。[1]

B)再体験
出来事の記憶が、望みもしないのに頭によぎる。
繰り返し、頻繁に思い出され、精神的な苦痛をもたらす。映像として思い出されることが多い。
出来事に関連した夢を見る。子どもの場合、内容がはっきりしないが、恐ろしい夢のこともある。
まるで再び出来事に遭遇したような感覚に生々しく襲われるフラッシュバックが起こる。
出来事に関連したものに出会うことによって、精神的な苦痛、身体的な反応(動悸、呼吸困難など)が起こる。

C)回避
出来事に関連する記憶、感情、会話を避ける。
出来事に関連する、思い起こさせる人、もの、場所を避ける。

D)認知と気分の変化
出来事に関連する重大な記憶の一部が思い出せない。
自分、他人、世界についての危険、責任、善悪、非難などでの過剰な思い込み。
嫌な感情が続く(恐怖、嫌悪、怒り、罪悪感、恥辱感・・・)
重要な活動への関心の低下、どこかに出席、参加することが減る
他人から孤立、疎遠になっている感じ。
いい感情(しあわせ、愛情など)を感じることが難しい。

E)覚醒と反応(2つ以上)
激しい怒り、攻撃性
危険があっても無謀に行ってしまう行動、もしくは自己破壊的な行動
過度の警戒心
何かへの驚きが過剰
集中困難
睡眠障害(なかなか眠れない、途中で目が覚めてしまう)

5)トラウマ・ストレス関連疾患とOCD

PTSDや適応障害をもつ人が、強迫症(OCD)を併せもったり、OCDの人の背景に、トラウマや大きなストレス体験が影響しているのではと疑われるケースもあります。

5-1)嫌な記憶とイメージが何度も思い浮かぶ
PTSDや適応障害では、事件の記憶や視覚的な映像が、自分の意に反して、意識にひんぱんによぎったり、フラッシュバックとして、再び同じ体験をしたような強い感覚に襲われたりします。
OCDでの強迫観念も、本人の意に反して、嫌な考えやイメージが、侵入的に繰り返し思い浮かび、コントロールが難しい点が似ています。
しかし、一般に、PTSDや適応障害では、OCDと異なり、思い浮かぶものが、再体験しているような感覚に近いものになります。

5-2)二次的なOCD
また、過去にトラウマ的な体験をした人が、きちんと治療できないままでいたために、不安や警戒への敏感性が残り、二次的にOCDを発症することもあります。

5-3)回避
PTSDの患者さんは、原因となった出来事を思い起こしそうな場所、人物を避けたくなります。たとえば、男性に被害を受けた女性が、似たような印象の男性を警戒し避けるようになったり、夜間、事件に遭った人は、夜の外出を避けたくなります。このような行動は、被害の内容によっては無理もない面があります。
しかし、人によっては、回避する範囲が過剰となり、成人の男性はすべて恐ろしいと感じてしまう、17日につらい出来事を体験したから17という数字がつくものはすべてダメになる、N市で嫌なことが起こったので、N市に住んでいる人はみんな嫌いとなってしまうことがあります。そうなると、より強迫的な症状となり、現実の生活での支障も増してきます。

5-4)確認強迫につながる場合
背後から人に襲われた経験をもつと、自分の後ろに誰かいないか頻繁に確認をしたり、部屋の戸締りがしっかりできているかなどを何度も確認するようになることがあります。このような行動が、強迫行為になることがあります。

5-5)汚染/洗浄の強迫につながる場合
性的な被害を受けた人が、そのときに着ていた服をすべて捨てようとしたり、自分の体が汚れたような気がしてしまうことがあります。事件の直後に、このような思いに駆られるのは、自然なことです。
しかし、その後も、事件とは関係ない男性に触れたかもしれない服や持ち物も汚く思え、洗浄や廃棄が繰り返されるようになると、強迫症状になっていくことがあります。

5-6)他者・社会の理解と関わり
患者さんの外見からは、症状がわかりにくい点は、PTSDでもOCDでもあります。特にトラウマ体験は、事件や被害の内容によっては、よほど信頼できる人にしか話せないことも多く、家族にも話せずに1人で苦しみを抱えていたということも珍しくありません。
また、どちらも警戒心が強くなる疾患で、重症化すると、他者や社会との関わりが減り、自宅にこもりがちになることがあります。

6)PTSDの診療

事件、性的暴行、虐待など、他人に話しにくいことがあります。また、他人に話したことで、思いがけない言葉が返ってくれば、さらに傷つきます。
また、精神科医や心理師でも、トラウマの診療経験が豊富な専門家はそう多くなく、治せない専門家に話しても意味がありません。
そのため、精神科、心理・相談機関のうち、できればこのような分野を専門とする心理士・相談員など、安心して話せる専門家に出会えるといいのです。

診断

精神療法
認知行動療法・・・持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)、など。

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)・・・治療者が患者の目の前で指を振り、患者が眼球を動かしつつ、過去の嫌な体験に向き合うという治療法です。自己否定的な考えに気づいたり、身体の緊張や不快感を下げて行きます。

対人関係療法


抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択肢とされる。
パロキセチン(商品名:パキシルなど)が保険適応している。
セルトラリン(商品名:ジェイゾロフトなど)もアメリカでは認可されている。[2]

・トラウマ関連疾患に、強迫症状が併存していても、薬物療法は同じSSRIです。
いずれの疾患にも認知行動療法として、曝露療法が有効ですが、用いるときに行動分析(ケースフォーミュレーション)を丁寧に行う必要があります。
しかし、認知行動療法は、トラウマとOCDの両方に詳しい専門家は少ないのが現状です。

参考

[1]アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修]「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」(2014年)
[2]一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会[著]「PTSD の薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために」2013年

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