3-2.妄想、解離と強迫観念の違い

著者:有園正俊 公認心理師、精神保健福祉士

精神疾患では、何らかの考えにとらわれて、不安や苦痛を感じたり、社会生活に支障をきたしてしまうことがあります。特に、現実と、どこかずれた考えにとらわれる症状に、強迫観念、妄想があります。また、解離性同一性障害のように、人格の同一性が損なわれることで、自分の中で命令されているような思いをする人もいます。それらの区別が難しい場合もあるため、その解説と、悪化しないためのポイントを紹介します。

目次

(1) 妄想ではない考えの症状(強迫観念など)
(2) 妄想とは
(3) 感覚の異常がそう思わせる
(4) 精神の働きを調整する自我
(5) 自分の中に複数の自分がいる解離
(6) 発症前の経過と対処

(1) 妄想ではない考えの症状(強迫観念など)

強迫症/強迫性障害(OCD)での強迫観念でも、何らかの悪いこと(被害・加害)に巻き込まれるのではというタイプがあります。実際に脅迫状が届いたというように根拠が明まであれば、不安に感じるのは当然です。しかし、強迫間では、他の人から見れば、根拠といえる程のものはないと思えるような状況でも起こります。

強迫症での強迫観念の例:実際には、すれ違った人とぶつかってないのに、もしかしたら自分の気がつかないうちに、ぶつかってケガをさせたのではと気になって、頭から離れない。

他の人から見れば、ケガさせるほど強くぶつかったのなら、すぐわかるだろうと思うのですが、強迫観念では、その考えに自信が持てず「もしかしたら」という想像にとらわれやすくなります。

社交不安症の例:人前で発表したときに、緊張でうまく言えなくなってしまい、他の人に変に思われたと思う。また、同じことをしてしったらと考えると、不安でたまらない。(注:これは強迫観念とは呼びません)

発表を見ていた聴衆の中には、発表者の緊張に気がついた人がいたかもしれませんが、聴衆が実際にどう思ったかどうかを、確かめられないケースも多いのではないでしょうか。

一般的な強迫症や社交不安症での考えへのとらわれは、いくらかであれば他の人でも気になることがある内容ですが、病気になると気になる程度、範囲がどこか過剰になります。また、現実的に大丈夫だという確証が得られれば、それを受け入れられる可能性をもっています。[1]しかし、強迫症の人が、確証を得ようと、現場に戻るなどして確認することは強迫行為になりますし、他人が、理屈で説得しても、理解を得るのは難しいケースも多いです。また、社交不安症の人では、相手が大丈夫と言っても、気休めを言っているのではと思い、信じることが難しいケースもあります。

(2) 妄想とは

妄想・・・事実ではないのに、真実だと思い込むこと。診断基準[1]では、「相反する証拠があっても、変わることがない固定した信念」と書かれています。妄想は、統合失調症、妄想性障害、認知症、物質依存などで起こる症状です。

診断基準[1]では、妄想は、現実では問題ないと証拠を知らされても、考えが変わりにくいものとされています。

被害妄想の例:近所の人たちが、ぐるになって、盗聴器をつけて見張っていて、嫌がらせをしてくると思い込んでいる。実際に、盗聴器が見つかったとか、直接の暴力を加えられている証拠があるわけではないのにです。

関係妄想の例:他人が、ひそひそと話しているのは、自分の悪口に違いない、

隣の家で、窓を閉める音は、私への嫌がらせで、わざと邪魔をしてくる。・・・というように、ちょっとした視線、言葉、出来事が、自分に向けられたものだと思い込むこと。

通常は、他人が、自分をどう思っているかという内面は、表情など外見から、いくらか推測できることがありますが、断定するには無理があります。しかし、妄想では、例3,4のように他人の内面まで、断定してしまい、どこか現実離れした度合いが大きくなります。

また、妄想で抱く相手が、現実的な人ではなく、神様や神霊のように超人的な存在となるケースもあります。

(3) 感覚の異常がそう思わせる

妄想、強迫観念、いずれも患者さんにとっては、本当のことのように思え、重症になるほど無視できなくなってしまいます。それには、そう思わせるような感覚の異常が伴うことがあります。


音がやけに大きく、鋭く聞こえ、怖さを感じ、落ち着かなくなる
何かがちょっと皮膚にふれると、非常に驚いたり、気になってしまう

これらは、感覚過敏とも呼ばれますが、過敏性を直接、観察することは困難であるため、近年、海外の研究では、感覚過剰反応(SOR)と呼ぶことが増えています。

感覚過剰反応(sensory over-responsivity:SOR)・・・聴覚、視覚、触覚、身体感覚などをもたらすもの(刺激)への反応が極端で、回避してしまう。OCD、発達障害(ASD,ADHD)、統合失調症、PTSD、身体表現性障害など、さまざまな精神疾患での報告があります。[2,3]

このような感覚過剰反応があるために、強迫症でも、嫌なものに触れていないのに触れたかもしれないなどの感覚の異常が生じるので、強迫観念にとらわれやすく、強迫行為をしたいという衝動に駆られやすくなります。

妄想の症状を持つ人での感覚の異常が、次の幻覚です。

幻覚・・・実際には存在しないものが、現実のあるように感じられる症状で、妄想を信じやすくさせます。現実にはないものが見える幻視、声や音が聞こえる幻聴、身体の皮膚や内部に感じられる体感幻覚など。このような感覚がするので、妄想を信じやすくなってしまいます。統合失調症などの症状の一つです。

(4) 精神の働きを調整する自我

自分の精神は、通常、身体の内側にあって、外の世界とは区別され、一つです。そして、現実と非現実とを区別し、現実に合わせて判断し、精神を外の世界から内面を守る働きもあります。これらの働きを行っていると考えられるのが、自我(*1)です。自我は、実体を観察できるものではなく、IT機器のプログラム、OSのように、働きはわかっても、実体は目に見えない概念的な存在です。

自我の働きの説明図

自我障害・・・自我の働きがうまく行かなくなることです。たとえば、自分しかいない場所なのに、誰かに見られたり、自分の考えが、他人に知られてしまうように思える、心の中に他人の思考や声が入って来てしまうものです。統合失調症などの症状の一つです。(自我の働きが弱くなることを自我脆弱性と呼ぶこともあります。)

一般に、このような症状に襲われると、本人には、非常に恐ろしく、精神的に不安定になります。

自我の働きが弱い状態の説明図

(5) 自分の中に複数の自分がいる解離

自分の内側と外側の区別は保たれているが、自分の内側に複数の人格があるように思えるのが、解離性同一障害です。多重人格や、記憶の一部が思い出せなくなる解離性健忘、離人感(非現実感、自分の体外に精神が離れてしまうような感覚)などの症状があります。この場合、複数の人格があっても、どれも別の自分であって、まったくの他人という感覚ではありません。

人は誰でも、自分の中に、いろいろな性格を持っているものです。やさしい自分、怒って怖い自分、いやらしい自分・・・内面では、いろいろな性格が意識に表れますが、人前では、出してはいけない自分を抑えます。しかし、解離性障害では、演劇で一人二役をするように、違った役柄の自分(別人格)が、内面にいます。その別人格は、通常は、潜在意識にいるのですが、状況に応じて、意識に顔を出したり、意識に都合悪い記憶が出ないように、操作をします。解離性障害では、自分で役柄の交代をコントールすることが難しい場合があります。

解離性同一性障害の説明図

通常は、解離性障害を発症する前に、過酷なストレスを、もしくは心的外傷(トラウマ)となった出来事に出合い、人格が解離することで、その過酷な状況をサバイバルしてきた体験を持ちます。

解離性障害の中には、他人や神様の声ではなく、自分の内側にいる別の人格が命令してくるように感じられる症状を持つ人がいます。
しかし、通常のOCDの強迫観念では、自分が本当はやりたくないのに、一方でやらなくてはならないという衝動が沸き起こりますが、いずれも別の人格ではなく、一つの人格として起こります。

(6) 発症前の経過と対処

6-1:発症前の不調と悪化予防

上記のいずれの症状でも、発症の前に、次のような経験をすることがあります。

  • 強いストレスにさらされる
  • 不安、恐怖、憂うつ、イライラなどの感情が強まる
  • 疑念や猜疑(さいぎ)心が強くなり、思い悩んでしまう
  • 恐ろしい事件に巻き込まれるんじゃないかという心配が強まる
  • 精神的な疲労がなかなか回復しない
  • 聞こえる音、見えるもの、など感覚が敏感に感じられる(SOR)
  • なかなか眠れない、睡眠が浅くなる、もしくは眠たいと感じることが増える

このような不調に気づいたら、悪化させないことが大事です。ストレスをもたらすものから、少し距離を開けるといいです。また、睡眠、休養の時間を十分にとることは大事です。

6-2:発症年齢

発症年齢は、疾患によって異なります。[1]
統合失調症:10代後半~30代半ばの発症が多いです。
妄想症(パラノイア):中高年世代でも、発症することがあります。
解離性同一障害:通常は、トラウマ、虐待など、非常に過酷な体験に伴って発症します。

一般的な強迫症や社交不安症が、重症化して、統合失調症に至るケースは、あまりありません。ただ、妄想というほどのレベルではないが、強い不安・恐怖を伴う考えにとらわれていて、強迫症との区別が難しいケースがあります。また、明らかな多重人格というほどではないため、解離が見過ごされているケースもあります。

6-3:自我障害の慢性化と回復

妄想・幻覚などが一過性で済めばいいのですが、慢性化してしまうと、薬物療法で症状を改善できても、再び自我障害が繰り返される可能性が残るため、薬物療法が不要になるほどの完治は難しいことがあります。そのため、自我障害が悪化しないよう早めの対処が望ましいです。

自我は、概念的な存在ですが、その働きの修復は、骨折の回復と似ていて、月日をかけて、ゆっくりと回復を待つことになります。骨折では、ギブスなどで、骨がくっつくまで守りますが、自我の働きの修復では、薬物療法をしつつ、強いストレス(対人関係、人混みなど)から適度に離れ、穏やかな生活を心がけます。

注釈

*1自我(ego)・・・古くはFreudフロイトが精神分析で提唱した概念である。Bellack, L. ら(1973)は、自我の働きとして、次の12に分類している。1)現実検討,2)行動についての判断,3)外界と自己についての現実感覚,4)欲動,感情,衝動の規制と統制,5)対象関係,6)思考過程,7)自我のための適応的退行,8)防衛,9)刺激防壁,10)自律性機能11)総合–統合機能,12)克服力–有能感機能[4]。

リンク

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」>こころの病気を知る>統合失調症

MSDマニュアル家庭版>10.心の健康問題>解離症

参考・本

[1] アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2014)「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

[2] Lewin,A.B.,Wu,M.S.,Murphy,T.K.& Storch,E.A.(2015). Sensory Over-Responsivity in Pediatric Obsessive Compulsive Disorder.Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment.Vol37, Issue1, pp134–143.

[3]Conelea,C.A.,Carter,A.C.,& Freeman,J.B.(2014).Sensory Over-Responsivity in a Sample of Children Seeking Treatment for Anxiety.  Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics. October;35(8):510–521.

[4] Bellack, L., Hurvich, M. & Gediman, H. (1973) Ego Functions in Schizophrenics, Neurotics, Normals. New York: Wiley.Beres, D. (1956) Ego deviation

タイトルとURLをコピーしました