著者:有園正俊 公認心理師・精神保健福祉士
自分の外見・容姿が気になって何度も鏡を見たり、悩んだりしたことは、誰しも経験するものです。しかし、身体醜形症(Body Dysmorphic Disorder :BDD)になると、外見・容姿の一部を、他人には気にならない程度でも、劣っていると思い込み、精神的に苦痛で、日常生活に支障をきたします。以前は、醜形恐怖症/障害(dysmorphophobia)とも呼ばれていました。
直接の診療は、精神科医から受けてください。(注:このページには、OCDサポートの心理相談室では行っていない診断、薬物療法の情報も含まれます。)
目次
(1) どのような病気か
(2) 特徴
(3) 発症とボディイメージ
(4) BDDと似た疾患
(5) BDDの診療
(1)どのような病気か
アメリカの精神疾患の診断基準(DSM-5 -TR[1])では、強迫症(OCD)の関連疾患として分類されていて、強迫症と共通する部分も多いです。
1-1) 外見へのとらわれ
自分の身体の外見・容姿の一部を、実際には、他の人は気にしない程度であるにもかかわらず、重大な欠陥に思え、注目し過ぎてしまいます。その部分の優れている人と比較する、もしくは他の人にも変に思われているのではと想像し、隠したがる人もいます。
気になる部位:1つ、もしくは複数、体型、スタイルが気になる場合もあります。
顔の一部(目、口、鼻、あごの形など)、髪の生え方、肌、身長、足やお腹の太さやたるみ、筋肉のつき方、性器、乳房など。
1-2) 繰り返し行為
回避・・・気になる部分をマスク、サングラス、帽子、衣服、メイク、髪型、日傘などで隠す。外見を多くの人に見られる場面をできるだけ避ける。
確認・・・鏡で見たり、さわったりして、大丈夫か何度も確かめます。家族などに大丈夫か聞く場合もあります。逆に、鏡で見たり、体重計に乗ることを回避する人もいます。
精神的な行為・・・頭の中で、他人と自分の外見とを比較します。
美容術・・・美容法を過剰に行い、繰り返す。
運動強迫・・・体型が崩れることを恐れるあまり、強迫的に運動をしないではいられない人がいます。
1-3) とらわれによる支障
気になる部位や、行為を隠すことで、他人と関わることができる場合もあります。しかし、重症度が増すと、学業、職業などの社会に関わること、日常の大事なことをこなすことに支障が生じます。症状にとらわれる時間は、1日1時間以上であることが、病気であることの基準の1つです。参考 [1]
症状が重くなるほど、とらわれる時間が増し、その部位が、人生を左右するような致命的な欠陥に思えてしまいます。
(2)特徴
2-1)病識
体の一部にとらわれ過ぎていると、自覚している人から、自分の信念は正しいと思っている人まで、さまざまです。
ただ、次のように、病気を自覚しにくい理由もあります。
・日本では、身体醜形症という病名自体が、あまり知られていません。
・外見や容姿に悩むことは、多少であれば、誰もが経験します。特に、思春期から青年期で、自分の身体が大きく変わる時期に、そのような悩みをもつことは自然なことです。そのため、どこからがBDDという病気であるのか、わかりにくいです。
また、もし誰かに相談したとしても、そのような悩みは誰でもあるもので、病気ではないと誤解される場合もあります。そのため、周囲の人からの理解が得にくく、長い期間、一人で悩むケースもよく見られます。
2-2)有病率
BDDの有病率は、アメリカで2.4%、ドイツで1.7~1.8%[1]、イタリアで0.7%[2]という報告がありますが、国によって調査方法が異なるため、どの国にBDDの患者さんが多いと一概に判断できるものではありません。患者さんの性別は、男性が約40%、女性が約60%です。これらの国でも、実際に医療機関を訪れてBDDと診断される人の割合は、有病率ほど高くはないと考えられています。[3] 日本では、おそらく正式な調査はないと思われます。
2-3)ファッションと美容整形
芸能人やファッションモデルでやせている人の画像、外見を意識させるメイクやダイエットの記事を目にすることで、社会で好ましいとされている容姿・体型と自分との違いを意識させられる場合があります。そのような社会的な環境も、BDDに影響を与えることがあります。
また、美容整形、エステ、トレーニングジムなどの広告や記事によって、スタイルや容姿を意識させられてしまうこともあります。 BDDのために、美容整形をしたい衝動にかられる人もいます。[1]しかし、精神的な病気なので、患者さんの中には、1回の美容整形では満足できずに、再び、気になる部分ができて、手術を繰り返してしまうケースがあります。
(3)発症とボディイメージ
3-1)発症年齢と自己意識
BDDでは、2/3の人が18歳までに発症します。もっとも発症が多いのは12、13歳頃の思春期で、子どもの体型から大人の体型になりかけた時期です。ただし、10代で発症しても、十分な治療を受けられないと、20代以降も症状を抱えたまま、中高年になるまで抱えることがあります。
通常、思春期には、体形の変化とともに、精神的にも、自分と他人との違いや、他人と自分との違いや他人からどう見られるのかをそれまで以上に意識します。そして、「こうありたい」と考える理想の自分と、現実の自分とのギャップに気づき、劣等感(俗にいうコンプレックス)を抱くことは、多くの人が経験します。通常は、思春期から青年期にかけて、このような自分と他人との違いを、外見だけでなく、勉強やスポーツなどさまざまな分野で知ることで、精神的な自己や価値観を形成し、自分の適性や将来の進路を考えるようになります。
3-2)ボディイメージと自己評価
ボディイメージ (body image)とは、自分の身体の外見について頭で思い描いたイメージや自己評価をいいます。
通常、ボディイメージと、実際の外見とではズレがあります。そのため、鏡で自分の顔や体型を見たときに、思っていたのと違うと思うことは、誰でもあるものです。
しかし、BDDという病気になると、ボディイメージと実際の違いに、強い不安、嫌悪などの感情をもつようになり、重大な欠陥と評価してしまいます。[3][4]
BDDの患者さんは、子どもの頃、かわいらしい容姿をしていて、周囲(とくに母親)から「かわいい」と評価され成長した人が多いそうです。[4]しかし、思春期に、自分の理想と現実の自分とのギャップに強いショックを受けることで、これまでの自分の優越感や価値観が脅かされるような不安を経験します。そこから生じる不安や嫌悪感を、打ち消そうと強迫行為を繰り返し行うと、かえって不安を敏感に感じやすくなってしまいます。
また、外見の恵まれている部分はさておき、気になる部位にばかり注目してしまう傾向があります。
また、BDDが重くなると、周囲の人が、仕事、勉強、スポーツなど有意義な活動しているのに、自分はBDDによってできることが限られてしまうと、さらに劣等感を抱くという悪循環になります。
(4) BDDと似た疾患
4-1)摂食障害
BDDで、スタイルを気にする人で、食事が、強迫的になることがあります。たとえば、太ることを恐れるために、カロリーの高い料理、脂っこい食べ物に恐怖を感じて、少量であっても避けてしまうことがあります。BDDでは、外見やスタイルへのとらわれと、それが脅かされることへの恐怖が根底にあり、摂食障害の診断基準では、うまく説明できない場合です。また、BDDでも、摂食障害でも、客観的とは異なるボディイメージにとらわれてしまう人がいます。
4-2)うつ病
BDDが重くなると、身体の一部への劣等感から、自分全体への評価が低くなってしまうことがあります。そして、否定的な考えにとらわれることで、抑うつ的な症状があらわれることがあります。成人してから発症した人に比べ、思春期・青年期で発症し、なおかつ重症の場合、希死念慮を抱き、自殺に至る危険性があります。参考[1]
また、人に見られることを避けて、自宅に閉じこもりがちになり、うつ病と誤解されてしまうケースもあります。
4-2)社交不安症
BDDで、社交不安症を併存するケースもよくあります。[1]たとえば、患者さんがBDDのために気になる部位を、他人が見て、変に思われないかと意識して、他人との関わりを避けたくなることがあります。
しかし、人前で、実際に顔が赤くなったり、震えたりすることがあるため、そのような外見を見られたくないので避けたくなるような場合は、BDDではなく、社交不安症と診断される場合があります。
(5)BDDの診療
5-1)BDDの診療ができる精神科医を探す
精神科医でも、BDDと診療した経験があまりない先生は少なくなく、精神科に受診した経験がある患者さんでも、BDDが見過ごされ、他の関連疾患と診断されているケースがあります[3]。
現状では、BDDへの適切な治療法があまり普及していないので、治療が可能な専門家を根気よく探すことが必要となります。OCDの治療法と似ているのでOCDへの専門的な診療ができる専門家を探して、相談する方法も考えられます。その場合、当サイト>強迫性障害の案内板>3-2.医療・心理施設リストを参考にしてみてください。
5-2)治療
イギリスでは、科学的に有効と認められた治療法を、国がガイドラインとして作成していて、OCDとBDDは同じ冊子にまとめられています。そこでは、BDDの治療でも薬物療法と認知行動療法が有効とされています。[2]
薬物療法では、SSRI(フロボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム)が主に使われます。(参考:強迫性障害の案内板>2-3.薬)
BDDの認知行動療法は、OCDへのものと似ています。BDDでは、容姿への悩みから不安や嫌悪感が生じ、それを打ち消すために、気になる部分を隠したり、何度も確認するなどの強迫行為をします。その状況をアセスメントして、悪循環となっている仕組みを心理教育で、患者さんと共有します。そして、この悪循環を変えていくために、曝露反応妨害(E/RP)などの技法を用います。
(参考:強迫性障害の案内板>2-5.行動療法1 曝露反応妨害の基本と目標設定、
2-6.行動療法2 曝露反応妨害のポイント、2-7.行動療法3 曝露反応妨害の経過 )
また、身体の特定の部分に注目し過ぎる傾向があるので、外見以外の活動や能力(勉強、スポーツ、趣味、家事、対人関係など)に注意を広げるための技法も大事です。
わかりやすい情報
本 原井宏明、松浦文香[著](2022)「図解いちばんわかりやすい醜形恐怖症」河出書房新社
参考
[1] American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] 、2014年、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2] National Institute for Health and Care Excellence. Obsessive-compulsive disorder: Core interventions in the treatment of obsessive-compulsive disorder and body dysmorphic disorder. 2005, NICE guidelines [CG31].
[3] International OCD Foundation, Body Dysmorphic Disorder (BDD)
[4] 鍋田恭孝[著]、(2011年)「身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか」講談社