著者:有園正俊 公認心理師、精神保健福祉士
強迫症、強迫性障害(OCD)という病名が、あまり知られていないため、潔癖症と混同されたり、誤解されることがあるようです。
しかし、手や体の洗い方や除菌する行為が、苦痛で、コントロール困難、生活に支障をきたしているのであれば、強迫症という病気の可能性があります。参考[1]
ただ、病気かどうかの診断は、医師しかできません。このページは、参考程度にお読みいただければと思います。
*新型コロナウイルスのような感染症が流行っているときは、平常よりも洗浄、除菌が増え、危険な場所を避けることは、無理もありません。また、新しい感染症が流行り始めた頃は、どのように感染するのか不明な部分があるため、対処に個人差が出てしまうのも自然なことです。
しかし、対処法は、感染症など専門家が指示する範囲であるべきで、それ以上に拡大解釈した独自の対処法は、いかがなものかと思います。
目次
1.用語
2.潔癖と、強迫症の汚染/洗浄タイプとの比較
2-1.共通な点
2-2.異なる点
3.大切な点
1.用語
きれい好き(cleanliness)
自分の家、部屋、持ち物、身体、衣服などに汚れやゴミがたまらないよう気を配り、片付いている状態が好きなことです。
潔癖
不潔なものを極度に嫌う性質。(デジタル大辞泉より[1])
きれいなものが好きというより、汚れや散らかった状態を許さない意味があります。
「潔癖しょう」では、2つの漢字が使われます。
潔癖性・・・潔癖な性分、気質を持つ人です。性格なので、病名ではありません。清潔について記難しい人を、英語でfastidious for cleanlinessということがあります。
潔癖症・・・潔癖が病的な場合だと思いますが、正式な病名ではなく、俗称です。潔癖症と言われる人の中には、下記の強迫症の人も含まれると考えられます。(fastidious disease)
強迫症、強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder:OCD)
精神医学的な病名です。強迫症が現在の疾患名で、その前の疾患名が強迫性障害です。強迫症によって、悪い結果になりそうだと思い込み、それを防ぎたくなることは、患者さんによって様々です。ただ、強迫症の患者さんの中には、不潔、汚れだと思うもの(実際に汚れの物質があるとは限らない)が広がることを想像して、それにとらわれ、それを防ぐために、洗浄、除菌、掃除が過剰となるタイプ(汚染/洗浄)があります。
(関連ページ:強迫症の案内板>1-1.どんな症状か?)
不潔恐怖・汚染恐怖
強迫症の症状の表れ方で、汚れや汚染が気になってしまうタイプです。正式な病名ではなく、俗称です。強迫症では、恐怖を感じる人もいますが、それよりも嫌悪、不安、怒りなどの感情を抱く人が多いです。
強迫性パーソナリティ障害
完璧主義で、秩序を頑なに守り、細部にとらわれ、柔軟性が乏しい性分を強迫的な性格が高じて、他人に迷惑をかけてしまう、感情や衝動の起伏が著しいなどのパーソナリティ障害の診断基準に適合してしまう場合です。その対象が、汚れの場合がります。(参考:1-5.強迫症とパーソナリティ、他の病気との違い)
2.潔癖と、強迫症の汚染/洗浄タイプとの比較
2-1.共通な点
1)汚れ・汚染を排除したい
汚れ・汚染があると思うと、敏感に反応します。
2)不特定多数の人が触るであろう物が苦手
電車の手すりや、エレベーターのボタンのように、他の人なら問題なく使っているものでも、不特定多数の人が使っている物・場所を、避けたくなる人は潔癖でも強迫症でもいます。特に、他人から分泌される汗、ふけ、臭いなどを帯びていそうに思えるものは苦手な人がいます。
この傾向は、2020年の新型コロナの流行以降、社会的に広がりました。
3)自分ときれい・清潔の価値観が違う人が苦手
汚れ、清潔に関して、自分が注目するところ、大事だと思っていることと、相反する行為をする人、外見の人に嫌悪感を抱きやすい。つまり、だらしない人が苦手なのですが、その度合いが、大多数の人より強いです。
4)時間や手間がかかる
掃除や、洗浄に、時間がかかったり、念入りに行うことはあります。潔癖か、強迫症か区別するには、どのような動機で、そのような行為をするかが重要です。
2-2.異なる点
1)自分が好んで行っているか?
きれいで片付いているのが好きで、自分がやりたくて行っているのであれば、強迫症ではないかもしれません。強迫症での強迫行為は、自分の意志がないわけではないのですが、重くなると、自分の意志に反して、強迫行為をしないではいられない衝動が強くなり、逆らうことが難しくなってしまいます。そして、強迫症では、苦痛があることが診断基準の1つです。
2)コントロールできるか?
事情に合わせて、後回しにしたり、放っておけることが、コントロールです。
強迫症では、重症になるほど、それが難しく、他の事をしないといけないとわかっていても、洗浄などの強迫行為を先にしたい衝動が強くなります。また、強迫症では、少しでも違和感、どこまでやったかわからないような不確かさがあれば、行為をやり直したくなってしまい、コントロールが難しくなることがあります。
3) 自宅がきれいとは限らない
一般に、潔癖というと、室内にゴミや汚れがほとんどなく、物が片付いている様子を思い浮かべます。
強迫症の汚れが気になるタイプで、そういう人はいなくもないのですが、そうではないタイプ、つまり特定の汚れ・汚染物質にばかり注目して、その洗浄や掃除(強迫行為)に時間がかかるため、自宅でも、それ以外の場所は、掃除が行き届かず、片付かないままになっているケースも多いです。
例:
強迫症で自宅の外、他人、他人が触れたものを汚いと思っているタイプでは、自宅に入るときに、外で来ていた服を着替えたり、カバンなどの持ち物を拭いたり、入浴しないではいられないことがあります。しかし、症状が重くなると、その作業に疲れるため、室内の掃除が追い付かず、散らかり方がはなはだしい場合があります。また、自分の部屋では、強迫行為をできないものが溜まってきて、寝る場所がなくなり、リビングや他の部屋で寝ざるを得なくなる人もいます。
4)自宅に他人を呼べるか?
きれい好き・潔癖な人でも、他人が自宅に来ると、汚されないか気になる人もいますが、一方で、他人にそのきれいさを見てもらうことを喜びを感じ、来客は歓迎な人もいます。
しかし、強迫症で汚れ・汚染が気になるタイプでは、他人が自宅に入ってくることを嫌がる人が多いです。特に、自宅に修理、メンテナンス、引っ越しなどの業者が入ってくることを警戒する話はよく聞きます。
5)間接的に触れたものまで汚く思える
強迫症では、実際の汚れよりも、汚れたと思う範囲が、どこか過剰になってしまいます。そのため、他の人には汚れや汚染物質がついていると思えないものまで、ついたかもしれないと、本人が警戒している場合があります。
また、汚れがついたと思えるものに触れた手で、他の場所をさわると、肉眼で汚れが見えなくても、細かい汚れがつているように思えてしまいます。そのため、見えない汚れがさらに広がってしまうことを想像して、それを防ぐためには手洗いや掃除をしないといけないという衝動に駆られてしまいます。→関連ページ:強迫症の案内板>2-8. 汚染/洗浄(不潔恐怖)の場合
3.大切な点
他人や周囲の状況と合わせられるか?
潔癖でも強迫症でも、汚れ、きれいさについての判断・ルールが、周囲の人と異なることがあると思います。そのような場合、相手や学校や職場の状況に合わせて、融通が付けらるかが大事です。
潔癖でも、強迫症でも、重くなるほど、精神的な余裕が乏しくなってくるので、自分と、周囲に警戒をもたらします。他人への許容範囲が広い方が、精神的には生きやすいです。
周囲に押し付けてないか?
家族だからといって、自分のやり方を押し付けてしまうと、相手にストレスをもたらしかねません。かといって、自分のやいたい欲求や感情をどのくらい押さえられるかは、症状や性格の度合いによります。
その場合、自分のルールで出来る範囲を相手や家族と取り決めることになるのですが、それが一方的にならないで、なるべく円満に出来るといいと思います。
参考文献
[1] アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2023)「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院