著者:有園正俊 公認心理師
強迫症/強迫性障害(OCD)への認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)を行う場合、患者さんの症状に関連した状況をくわしく調べます。その結果から、強迫観念と強迫行為が悪循環になっていることを、患者さんとともに理解していきます。そして、それを改善するための課題を考え、計画を立てます。
[1]症状を調べて、分析する
認知行動療法(CBT)の全般的な解説は、精神科の情報>1-3.認知行動療法の基本と対処をご覧ください。

強迫観念、強迫行為が起っているときに、どのような状態になっているかを、認知行動療法モデルに沿って、考え/認知、行動、感情、身体の反応、周囲の状況の5つ領域に分けて、患者さんから聞いて、共同で観察した結果をまとめていきます。=アセスメント[1,2]
アセスメントした結果から、患者さんの中で、各要素がどのように働きかけ合っているかを分析する機能分析を行います。[2]
強迫症での機能分析の例:
①強迫観念を引き起こす場面(トリガー:引き金、強迫症状を引き起こす場面に出会うこと)があるか?、トリガーがない場合もある。
例)うっかり汚いと思う場所を通った-状況
↓
②強迫観念が、頭によぎり「目に見えない汚れがついてしまったかもしれないと思う」-認知
↓
不安、焦り-感情
↓
緊張して体がこわばる、ドキドキする、触っていないのに触った感覚がする、とても疲れる-身体の反応
↓
③汚れがついたと思う部分を、何度も洗う=強迫行為を行う。-行動
↓
一時的な安心-感情
↓
そして、一時的な安心が得られるので、また、同じような状況に出合うと、強迫観念と強迫行為は繰り返されてしまいます。=強化
強迫症状は、いったん習慣になってしまうと、それを、自分で止めたり、コントロールすることが難しくなります。=悪循環

この結果を、患者さんと共有し、症状を改善していくためには、患者さんができそうな認知行動療法の課題を計画していきます。このように、患者さんと理解を共有していくことを心理教育と言います。
[2]巻き込みを含めた機能分析
強迫症状への巻き込み=患者が不安や怒りを減らしたい動機によって、周囲の人の日常生活に変化を及ぼしてしまうこと。[3]
家族が巻き込まれることも、繰り返されると、本人の強迫行為と同様で、本人の苦痛は一時的には減りますが、悪循環となっていきます。
家族の巻き込みが増すと、患者さんの症状も重くなりやすいです。また、本人の精神症状の治療にも、支障をきたしやすいです。[4]

まずこの仕組みを、患者さんや、家族が知ることが大事です。
また、理屈はわかっても、巻き込まれが習慣になってしまうと、そう簡単に止められるものではないのも、よくある話です。
すぐには、巻き込みが止められなくても、それに関連した状況をアセスメントし、記録していきます。そして、家族を巻き込んでも、強迫症状の時間が改善されていない、むしろ長い期間でみると悪化している状況を、できるだけ患者さん自身や家族が理解できるといいのです。
家族の対応については、精神科の情報>2-1.家族への巻き込みと対処 のページに書きました。
参考
[1]下山晴彦、神村栄一[編](2014)「認知行動療法」放送大学教育振興会
[2]下山晴彦[編](2007)「認知行動療法 理論から実践的活用まで」第2部第4-7章金剛出版
[3][1] E R Lebowitz, K E Panza, M H Bloch, (2016) Family accommodation in obsessive-compulsive and anxiety disorders: a five-year update. Expert Rev Neurother.;16(1):45-53.
[4]カレン・J・ランズマン, キャサリーン・M・ルパータス, チェリー・ペドリック著堀越勝監訳「家族と取り組む強迫性障害克服ワークブック」第4章,星和書店