5-1.OCDと脳

著者:有園正俊 公認心理師

強迫症/強迫性障害(OCD)の患者さんの脳について、画像解析を用いた研究が行われています。そのあらましを、まとめました。

[1] 脳の構造とOCDに関連した部位

大脳は、下図のように、大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核に分類できます。
(脊椎)動物の脳では、延髄、脳幹といった脳の中心から下が進化的に古い部分です。魚類、両生類には、大脳辺縁系があります。哺乳類では、進化するほど、大脳皮質が発達し、脳の外側ほど、進化的には新しく、高度な働きをする部分です。[1]

大脳の皮質、辺縁系、基底核などの位置

人が活動するときには、脳の中のいくつかの部位が、連携して働いています。脳の画像を調べた研究によると、OCDの患者さんの脳では、複数の部位で、OCDではない人の脳とは異なった傾向が見られることがわかってきました。しかし、OCDの患者さんや報告によって、そのような異常を示す部位、反応はまったく同じとは限らず、いくらか異なる場合もあります。つまり、脳画像による解析研究では、まだわかっていないことも多いのです。

まず、OCDによる脳での異常に、関連していると報告されている部位を紹介します。

1-1.大脳皮質

大脳皮質のうち、OCDとの関連で重要なのが、前頭葉にある前頭前野です。

前頭前野(前頭前皮質、前頭連合野)・・・大脳皮質のうち、前頭葉の前側になり、人で特に発達しています。思考、創造性、意思のような高度な働きの中枢となっています。行動を適切に制御するために、感覚、記憶、情動、運動などに関する幅広い情報を集めます。成熟が最も遅く、20歳代で完成します。また、老化によって、早く機能低下が起こりやすい部位でもあります。[2]

眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)・・・前頭前野のうち目の上の部分。視覚、聴覚、体性感覚、味覚、嗅覚などの感覚の情報、扁桃体からの感情の情報、記憶情報に関連し、それらを総合的に判断し、適切な行動へと結びつける意思決定、動機づけなどに関連すると考えられています。[2]

1-2.大脳辺縁系(limbic)

辺縁皮質(大脳皮質の内側の層。帯状回、海馬傍回、前頭眼窩野内側部などを含む)と、海馬、扁桃体、乳頭体など、そしてそれらを繋いでいる線維連絡(脳弓、脳弓交連など)からなります。本能や感情に関連した働きをします。

帯状皮質(cingulate cortex)・帯状回(cinguli gyrus)・・・大脳辺縁系の各部位とネットワークでつなぐ役割をしています。感情の形成と処理、学習と記憶に関わっていると考えられます。前部(anterior)と後部(posterio)に分けられます。

前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC)・・・報酬や刺激に応じて行動を調節する働きに関わる領域、自分以外の人への認識に関わる領域、情動・痛覚に関わる領域とがあります。[3]

海馬(かいば)・・・左右に1つずつ。近時記憶の形成に関わります。海馬、海馬台、歯状回、脳梁灰白層を含めて海馬体と呼びます。[4]

扁桃体(へんとうたい)・・・左右に1つずつ。情動・感情を生じさせ、その学習、海馬と連携し、情動をもたらした出来事への認識・記憶を結びつけることに関係していると考えられています。扁桃体にはすべての感覚情報が集まり、これらの情報を統合して視床下部などに出力しています。[5]

1-3. 大脳基底核(だいのうきていかく)

大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり。線条体、視床下核、レンズ核(淡蒼球+被殻)、黒質からなります。

線条体(せんじょうたい:striatum)・・・背側の新線条体と腹側線条体とに分けられます。

新線条体(背側線条体)は、被殻尾状核からなります。視床の両側に覆うように、右脳、左脳の両方にあります。
被殻(ひかく)・・・前頭葉の運動野に淡蒼球と視床を介して、関連しています。身体の動きをコントロールする神経を中継します。
尾状核(びじょうかく)・・・学習と記憶、行動と思考の習慣について、大脳皮質との情報を中継し、コントロールすることに関わっていると考えられます。

腹側線条体(ふくそくせんじょうたい)は、側坐核(そくざかく、coreとshellから成る)を中心に含みます。大脳皮質、扁桃体と海馬からの情報が入力され、大脳基底核(淡蒼球、黒質)、視床下部などへの出力が観察されています。空間の位置情報、ゴールに着くための行動選択、快感・報酬・情動の変化によって行動の意思決定、意欲の低下、薬物中毒、統合失調症、OCD、ADHDなどの精神症状に関連すると考えられています。[6]

1-4.間脳(かんのう)

脳幹(広義)にあり、中脳、延髄と、大脳をつなぐ位置にあります。視床、視床下部、松果体、脳下垂体を含みます。

視床(ししょう)・・・視覚、聴覚、味覚、体性感覚、痛覚など体の各部から神経で伝わってきた感覚情報(嗅覚を除く)を総合的に大脳皮質へ中継します。大脳皮質と相互に感覚情報のやり取りをすることで、高度な情報伝達をしていると考えられています。

[2]OCDとの関連

上記の部位の関連について、次のような仮説が考えられています。

2-1.ブレイン・ロック

アメリカのシュウォーツ先生が、著書(1996、邦題「不安でたまらない人たちへ」[7])で、脳画像の研究を元にOCDでの脳の状態と治療法を解説しています。

P29 「尾状核は、脳の前部のはたらき、つまり思考にとっての、オートマチック車のトランスミッションのようなはたらきをする」「身体の動きを制御する部分のトランスミッションである(線条体の)被殻とあいまって、尾状核は、毎日の暮らしの中で、思考と行動を効率的に調整している」のだそうです。
しかし、p29OCD患者の脳では、脳の前部(眼窩前頭皮質を含む)から尾状核に来た情報が、ギアシフトがうまく働かずに、引っかかってしまいます。そのため、P116「尾状核の代謝が異常に活発になり」、P125「尾状核の異常によって、過誤検知のシステム(眼窩前頭皮質)のスイッチが入りっぱなし(代謝が激しくなる)になり、何かがまずいという強烈な感情が消えなくなる」P119「線条体が十分に機能していないと、望まない思考や衝動が侵入してくる」、強迫行為の動作を繰り返してしまうのだそうです。

P126尾状核、眼窩前頭皮質の活動は、視床、帯状回の活動と強く連動していて、これらの部位が互いに働かない(くさり状にロックされている)状態を、ブレイン・ロックと呼んでいます。

ブレイン・ロックを外すには、行動療法(曝露反応妨害を中心とした)です。薬物療法については、p292「薬で症状を緩和することで、関心の焦点を移すのが楽になった」薬は、子どもに水泳を教えるときの浮き輪のように、薬が恐怖を軽減している間に、泳ぎを覚える(行動療法をする)役割をするそうです。
そして、OCD症状が改善すると、脳画像では、p127尾状核の代謝活動が大幅に低下し、眼窩前頭皮質、尾状核、帯状回、右側の視床の関連性(ブレイン・ロック)が低下するそうです。

2-2.OCDループ

Saxenaら(1998)[8]によって、眼窩前頭皮質―線条体での不均衡、それによる視床への抑制、制御が弱まり、これらの部位での過剰な結合が行われていることをOCDループと呼びました。[9,10]
その他に、次のループの報告もあります。
・情動ループ・・・OCDループに前部帯状回(ACC)、海馬、扁桃体を加えたもの。[9,13]
・認知ループ・・・前頭前皮質の外側、頭頂葉から尾状核(線条体の一部)から視床下核を経由して視床に至る空間・注意に関するもの。[9]

2-3.CSTC回路

ブレイン・ロック(1996)では、線条体の一部である尾状核、大脳皮質の一部である眼窩前頭前野、視床が問題となっていますが、その後、これらの部位の関連がくわしくわかってきました。
大脳皮質(cortex)―線条体(striatum)―視床(thalamus)―大脳皮質(cortex)での関係をCSTC回路と呼び、どの部位に異常が見られるかを研究した方向があります。[9,11,12,13]
CSTC回路には、直接路と間接路とがあり、OCDに関するのは3種類が報告されています。

CSTC回路

CSTC系は、セロトニン神経系の支配を強く受けます。([13]p61、参照:健康・リハビリ>6.光、運動とセロトニン

[3]補足

・脳の内部には、痛覚がなく、上記の異常を直接、感じることはありません。頭痛を感じるのは、頭の皮膚、筋肉、骨膜、頭蓋骨の内側の硬膜などです。三叉神経が関係しているという説があります。

[4]参考文献

[1]坂井健雄、久光正[監修] (2011)「ぜんぶわかる脳の事典」成美堂出版

[2]脳科学辞典>渡邊正孝(2013)「前頭前野

[3]脳科学辞典>岩田潤一、嶋啓節、虫明元(2016)「前帯状皮質
[4]脳科学辞典 >石塚典生(2014)「海馬
[5] 脳科学辞典> 田積徹、西条寿夫「扁桃体
[6]脳科学辞典>中村加枝(2019)「腹側線条体

[7] ジェフリー・M・シュウォーツ[著]吉田利子[訳](1996、2016、新装版訳:2017)「新装版 不安でたまらない人たちへ やっかいで病的な癖を治す」(原題「BRAIN LOCK」)草思社
[8]S. Saxena, A. L. Brody,J. M. Schwartz and L. R. Baxter.(1998) The British Journal of Psychiatry , Volume 173 , Issue S35: New perspectives in research and treatment of obsessive-compulsive disorder , August 1998 , pp. 26 – 37.
[9]塩入俊樹、加藤佳悟(2017)「不安症群と強迫症との関係性」精神科治療学vol32.No.3,Mar. p357-364.

[10] 酒井雄希、田中謙二(2017)「強迫症研究のこれからーtranslation researchの可能性についてー」精神科治療学vol32.No.3,Mar. p399-404.

[11]中前貴(2017)「強迫性(compulsivity)の拡がりと連続性」精神科治療学vol32.No.3,Mar. p365-370.

[12]阿部能成(2017)「強迫症の脳内メカニズムー最新の画像所見を中心にー」精神科治療学vol32.No.3,Mar. p379-385.

[13]Dan J.Stein[著]、田島治、荒井まゆみ[訳](原著2003年、訳2007年)「不安とうつの脳と心のメカニズム」星和書店

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