3-10.チック症候群、トゥレット症

著者:有園正俊 公認心理師、精神保健福祉士

チックは、自分では意図しないのに、ピクピクッと体の一部が突発的に動いてしまう精神疾患です。通常、子どもの頃に発症し、一過性で済むことが多いです。しかし、チックを経験した人が、強迫症/強迫性障害(OCD)を経験することもあり、チックと強迫症との関連についても解説します。
(注:OCDサポートの心理相談室では行っていない薬物療法についての一般論の紹介も、含まれることをご了承ください。)
目次
1 用語説明
2 特徴
3 強迫症との関連
4 治療
5 参考

1 用語説明

診断基準[1]を参考に、一般の方向けにわかりやすく要点をまとめました。

チック――顔の一部、首、肩、手、足などが勝手に動いてしまうもの(運動チック)や、勝手に声を上げてしまうもの(音声チック)があります。これらの行為は、繰り返されます。リズム、意図的なルールに合わせた行動とは異なります。
貧乏ゆすりのように、自分で止めることができて、生活に支障をきたさない体を動かす癖は、対象になりません。コントロールが難しくて、生活に支障をきたす行為が繰り返されるものです。

暫定的チック症―――1年以内に治まる一過性です。

複雑性運動チック―――動きの時間がやや長く、いくつかの動作が組み合わさってものです。物や人を触ったり、たたいたりするような動きをすることがあります。

持続性・慢性(運動性、音声)チック症――― トゥレット症候群ほど、チックの種類は多くないが、ほとんど毎日生じ、1年以上続いている場合です。

トゥレット症―――複数の運動チックと1つ以上の音声チックの両方を経験し、1年以上、続いている場合です。[1]

いずれの新患でも、18歳以前にチックを発症した経験があります。

2 特徴

多くのチックは一過性で、暫定的チック症です。数年後には最終的にはなくなるか、大幅に改善します。ただし、ストレス、不安、疲れが強いときは、悪化することがあります。

・神経精神障害であり、てんかんのような神経疾患(神経科、神経内科で扱う)とは区別されます。
・脳の大脳基底核のドパミン神経系の異常が生じています。

・発症は4-6歳、重症度のピークは10-12歳です。ただし、他の年齢で発症する人もいます。
男性の方が女性よりも経験する割合が多い。

併存しやすい疾患・障害:
注意欠陥多動性障害(ADHD)、強迫症(OCD)

3 強迫症との関連

強迫症患者のうち20-30%が、現在もしくは過去にチックを経験しています。
チック症を経験した人のうち、22-44%はOCDを経験します。[3]

強迫症とチック症をいずれも経験している人では、通常、18歳以下の子どもの時期に、どちらかの症状が始まります。

強迫症もチックも、動作が繰り返されることが共通しています。
チックは、強迫観念が伴いませんが、不安、焦りなどの感情、緊張しやすいなどの傾向が伴うことがあります。

チックも強迫症も、小学校くらいまでなら、時期が経つと、治まることがあります。しかし、何年も症状が続いたり、思春期以降になると、自然な改善は難しくなる傾向があります。

4 治療

・チックで軽度の場合は、必ずしも治療する必要がありません。[2]
重度の場合や、慢性的に日常生活に支障をきたしている場合は、治療という方法もあります。

・診療は、精神科、小児・児童精神科で、このような疾患に対応できる専門家です。
・海外では行動療法が推奨されますが、日本の精神科では、薬物療法のみの診療がほとんどです。そのため、治療経験が豊かな専門家に出会うことが難しいです。

4-1)認知行動療法

チックへの認知行動療法で、DBTIという略語がありますが、それは次の2種類があります。

チックへの認知行動的介入―――Cognitive Behavioral Intervention for Tics
チックへの包括的行動的介入―――Comprehensive Behavior Intervention of Tic Disorders

その中で用いられる主な行動療法の技法:

ハビット・リバーサル(習慣逆転法:HRT)―――まず(1つ1つの)チックがどのように生じているかを調べ、それに気づくトレーニングをします。そして、チックの動きに対抗するような別の筋肉の収縮させる動作を探します。でもこにいても、すぐにできる動作です。その動作を、チックが起きそうなときに始め、チックの衝動が和らいだ後も、しばらく続けるようトレーニングします。(1回1分以上)これらを、チックに置き換わることが習慣となるまで続けます。
始めは、不快な感覚になりますし、習慣となるまでは、かなりの訓練が必要となります。この方法で、チックがなくなるわけではありませんが、いくらか減らせます。[4し

曝露反応妨害(ERP) ―――チックをしたい衝動があっても、その動作をしないように反応妨害し、不快な感情が鈍くなっていくようにトレーニングします。[2,3,4]

4-2)薬物療法

薬物療法は、チックが重症、もしくは日常の活動に影響を与える場合にのみ推奨されます。すべての患者さんに効くわけではありません。 [2,3]

抗精神病薬 リスペリドン、アリピプラゾールなど

中枢性交感神経抑制薬 クロニジン

5 参考

[1]アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修](2023)「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2]NHS ガイドライン チック トゥレット症候群
[3]Martin E. Franklin, Ph.D.,* Julie Harrison, B.A., and Kristin Benavides, B.A.(2012) Obsessive Compulsive and Tic Related DisordersChild Adolesc Psychiatr Clin N Am. 21(3): 555–571.
[4]Tictock Therapy>Overview of Therapy Services