著者:有園正俊 公認心理師
目次
1 ためこみと用語
2 ためこみと精神疾患
3 ためこみの特性
4 対処と相談・診療
1 ためこみと用語
ためこみ(hoarding)・・・物や場所の状態を表す言葉です。
ゴミ屋敷・・・家や室内にゴミがたまっている様子。
いずれも病名ではありませんが、精神の病気が影響していることがあります。
通常は、一人の人によって物がたまった状態をためこみと呼び、複数の人によって、ゴミが不法投棄されている場所とは区別されます。
また、災害によって、一時的にゴミがたまった場合は除きます。
ためこみをもたらした人は、次の3つの行為のどれか、もしくはすべてに問題があります。
収集 物を集めてしまうことが多い。
整理 散らかってしまう。物の置き場所を使い道に合わせて分類することが困難。
処分 物を捨てることが困難、捨てられない(saving)。
このような行為が繰り返され、長期間に及ぶうちに、何らかの支障が出て、問題となります。
2 ためこみと精神疾患
ためこむ人の中には、さまざまな精神疾患を抱えている場合があります。
①注意欠如/多動性障害(AD/HD):
・物を一時的に置くと、後で思い出せず、どこに置いたかわからなくなり、それが重なることで、室内が散らかっていくことがあります。
・物を整理する、作業の段取りを考えて行うことが、元々、苦手な人がいます。
・物を捨てるか判断するには、必要性や価値の優先順位をつけることが必要ですが、そのような判断が苦手な人もいます。
②自閉症スペクトラム障害(ASD):
・対人関係が難しいため、興味が物へ向きがちな場合があります。
・興味が限定的で、ある行動にはまると、それを繰り返したくなる傾向(こだわり)があるため、それが物の収集でも行われるケースがあります。
・物を処分することに伴うわずらわしさ、苦痛、あとで後悔するかもしれないという嫌な考えを自分の中で処理するのが苦手な人がいます。(自閉症スペクトラム障害では、逆にどんどん捨ててしまう行為にはまる人もいます。)
注:①注意欠陥多動性障害、②自閉症スペクトラム障害は、発達障害で、診断するには、子どもの頃の発達状況がわかる必要があります。しかし、患者の年齢が高いと、その親・養育者から患者の幼少時の状況を聞けないため、診断が確定できないケースがあります。
③強迫性障害(OCD):
OCDによって、ためこむ場合、収集、整理、処分の行為をするときに、不安、苦痛など嫌な感情や、否定的な思いにかられ、そのコントロールが難しい場合です。物を獲得することへの興奮、快楽、満足感などが強い場合は、OCDといえるか疑問です。
例:
・除菌用品など自分にとって欠かせないものが、もし買えなかったときのことを思うと不安で、自宅にたくさんあっても、お店で見ると、つい買ってしまう。
・ゴミの中に、何か大切なものが混ざってしまっていたら大変だと思い、捨てる前に確認しないと気が済まない。その確認に時間がかかり、物がたまってしまった。
・物の処分や片づけに伴う強迫行為や、物以外のことへの強迫行為にかかる時間が長すぎて、疲れて、そのうち捨てるつもりだった物がたまってしまう。
*強迫行為の結果として、物がたまってしまうケースを、強迫的ためこみ(compulsive hoarding)と呼ぶこともあります。
④うつ病、うつ状態
片付けや捨てる気力がなくなり、物がたまってしまう。
⑤認知症
後天的に認知や記憶の働きが衰えたことによって、物を置いた場所を記憶する、片づける、捨てる作業が難しくなる。
⑥その他
統合失調症、依存症(アルコール、買い物・・)などでも、このような溜めこみにはまってしまう人がいます。
これらの精神疾患では、うまく説明できない場合、次のためこみ症に該当する場合があります。
⑦ ためこみ症( Hoarding Disorder)
診断基準(DSM-5(2013年)[1]による)
A 実際の価値とは関係なく、物を捨てること、手放すことが困難な状態が続く。
B 物を取っておきたいという欲求や捨てるときの苦痛のために、物を捨てることが困難となる。
C 物を捨てることが困難であるために、自宅の生活空間が物でいっぱいになり、散らかり、本来の目的にそった使い方に支障をきたす、危険を伴うようになる。ただし、もしその空間が散らかっていなかったとしたら、他者(家族、清掃業者、公的機関)による介入があったためである。
D ためこみは、精神的な苦痛を感じているか、日常生活や社会(仕事、学校、地域)との関わりに支障をきたしている。
E ためこみは、他の医学的な疾患(精神疾患以外)によるものではない。
F ためこみは、他の精神疾患では、うまく説明できない。
(注:他の精神疾患で説明できる場合は、ためこみ症とは診断されません)
3 ためこみの特性
ためこんだ人の心理的な特性は、さまざまで、個人差が大きいです。
問題意識とコントロール:
・本人が、どの程度、問題であるか自覚している度合いも、人によって様々です。本人は、あまり自覚がない場合もありますし、他者に非難されると、よけい自分の行為に固執したり、怒ることもあります。
・本人に罪悪感や恥ずかしさがあり、止めたいと思うこともあるけれど、自分ではコントロールが難しく、繰り返してしまう場合もあります。
・物は、量が増えてしまうと、一人の力では、収拾がつかなくなってしまうことがあります。ましてや、物に対する思い入れや感情が強いと、さらに自力での処分は難しくなります。
・周囲から見れば、少しずつでも捨てればいいのにと思うかもしれませんが、本人にとってはどこから手をつけていいかわからず、その問題に向き合うことを回避してしまうケースもあります。
・どこに何があるか、わかっている程度も様々です。
・集めること自体にはまっているケースでは、自宅に持ち帰った後は、その使用に興味がなく、かといって、手放すこと自体は嫌なために、室内に放っておくだけになってしまうことがあります。
・捨てるなど、周囲からみれば簡単な決断でも、自分では非常に苦手になる人もいます。
・症状に関連しているため、他人に自分の物を勝手にさわられたり、処分されたりすることを嫌がります。そのため、他人やゴミ処分の業者に頼むのも抵抗があることが多いです。
年齢:
発症年齢はさまざまで、思春期の頃から、そのような症状がある人もいます。
子どもの場合、収集は、家族と一緒に住んでいたり、収入も限られるので、大人ほど深刻にはならないことが多いです。
中高年になってから、そのような行為が目立つ場合もよく見られます。
支障:
・問題が深刻な場合、命の危険すら生じます。
・寝る場所や、日常生活のさまざまな場面に支障をきたすので、身体の健康にも影響が出ることがあります。特に、高齢の場合、身体への影響が深刻となることがあります。
・不衛生になり、カビや雑菌が繁殖し、悪臭も出て、害虫が増えます。
・動物や昆虫を飼っていたり、それらを拾ってきて、十分な管理ができていない場合、衛生的な問題が深刻になることがあります。
・ためこんだ物の重さや家屋の腐敗で、床が抜ける、壁などが損なわれることがあります。
・家族にもストレスとなり、さまざまな影響が及びます。しかし、独居のケースもよくあります。
・自宅の外にも影響が及ぶと、近所から苦情が出て、問題が深刻になりがちです。
4 対処と相談・診療
周囲の人は、ゴミがたまった状態を見て、片付けてほしい、病気なら受診してほしいと思うでしょう。しかし、それを本人に強いると、かえって抵抗することが多いのではないでしょうか?
「ためこみ」と言っても、本人には、それなりの心理があるものです。
周囲の人は、物に目が行きがちですが、ためこむ人の中には、そもそも仕事や地域で、他の人たちと共同で行う仕事やコミュニケーションが苦手、もしくは特徴的という人もよくいます。
また、表面的には、仕事ぶりや会話にそれほど問題がなくても、本当の自分はどこか抑え込んで、周囲の人に見えないこともあります。
そのため、ゴミを処分することより、家族以外で、誰か本人と話せそうな人を見つけることが必要とされるケースもあります。
本人が、他者になかなか相談や診療に応じない場合、動機づけ面接を用いる方法も考えられます。
背景に精神疾患がある場合、精神科医による診療が必要となることがあります。
病気によっては、治療をしないと、物を一時的に強制的に処分したとしても、その後もまたゴミが溜まってしまうことが繰り返されてしまいかねません。
しかし、医師が、直接、片づけを指導することは、現実的には難しいです。そのため、医師以外にも、心理師、ソーシャルワーカーのような相談員、訪問看護師など、支援してくれる人がいると望ましいです。
そして、物の収集、整理、処分について、これまでの方法に代わる手段を、本人とともに探して実行していけることを目指します。それには、行動療法が役立つことがあります。
5 参考
[1]アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修](2014)「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2]David F. Tolin, Randy O. Frost, Gail Steketee, Buried in Treasures: Help for Compulsive Acquiring, Saving, and Hoarding, Oxford University Press, 2007