2-4-2.強迫症の重症度

[1]重症度が増すと、コントロールが難しくなる

・強迫症/強迫性障害(OCD)は、人口の1~2%の人が体験すると言われていますが、その中には、症状が軽い人から重い人まで含まれます。
・診断基準[5]によると、強迫観念、強迫行為の両方もしくはいずれかに1日に合計1時間以上、時間を浪費することが基準の1つです。そのため、1時間から、それを少し超える程度であれば、軽度です。
・強迫症のために浪費する時間が長いほど、重症度は重く、苦痛も増す傾向があります。
そして、重症度(severity)が増すほど、強迫観念による強迫行為をしたい衝動(urge)が強く、それに逆らったり、コントロールすることが難しくなります。

つまり、強迫観念が頭によぎり、強迫行為をしたい衝動があっても、軽度の人であれば、それらにとらわれずに仕事や学業をすることが、それほど難しくありません。しかし、重症度が増すほど、学業や仕事を続けることが難しくなり、休む人もいます。すなわち、患者さんも家族も強迫症に生活を支配されていく割合が増えます。
そして、症状が重い人ほど、専門家による治療を受けることが必要になります。

[2]重症度の測定にはY-BOCS

強迫症で、もっともよく使われる評価尺度が、エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度(Y-BOCS*) です。[1,2]信頼性・妥当性は確かめられています。[3]
Y-BOCSには、次の1)2)が含まれます。
1)症状評価リスト
強迫観念と強迫行為のいろいろな表れ方が載っていて、該当する項目をチャックします。ただし、リストが作られたのは1980年代で、古くなっている部分、この表に載っていない項目もありえます。

2)重症度質問票(アンカーポイント)
強迫観念、強迫行為について、
・費やす時間
・社会活動、仕事(学業・家事)での支障の程度
・苦痛の度合い
・症状にどのくらい抵抗しているか
・症状をどくらいコントロールできるか
について0~4の5段階で評価します。
そして、強迫観念5項目、強迫行為の5項目の得点の合計した40点満点の点数で重症度を判断します。[4]

得点重症度内容
0-7 病気とはいえない。
8-15 軽度 苦痛を伴うが必ずしも日常生活や社会参加に支障をきたす(機能障害)というほどではなく、作業にいくらか時間がかかってしまうことがある。他者からの援助を通常必要としない。
16-23 中等度 苦痛と機能障害の両方をもたらす。独力では、症状のコントロールが難しく感じられ、専門家に相談したくなる人がいるレベル。
24-31 重度重大な生活機能の障害を引き起こし、他者からの援助を必要とする。通勤、通学、日常生活をするには、非常につらい。
32-40 極度 生活での機能の障害が重い。生活の大半が症状に費やされ、周囲の人の援助が多大となり、引きこもり状態の人が多い。
重症度 障害の内容[4]

Y-BOCSでの各重症度の内容は、こういう状態の人が多いという意味で、必ずしもその内容通りとは限らないケースもあります。

強迫症/OCDでの症状の程度と重症度の説明図

[3]Y-BOCS使用の注意点

  • 重症度(アンカーポイント)では、ここ1週間での強迫症状について回答します。
  • 測定前に、治療者と患者とが、強迫観念、強迫行為という症状を正しく理解していることが必要です。たとえば、頭の中の強迫行為と、強迫観念(侵入思考に反応した思考も含まれる)の区別は、誤解されやすいので注意するといいです。
  • 患者の強迫観念と強迫行為のすべてを、チェックリストやアセスメント表などを用いて、把握しておきます。患者が、強迫症状だと気づいていない部分が、見逃されてしまうことがあるためです。そのため、患者トへのアセスメント・心理教育が進んだ2回目以降の面談で重症度を測る方が正確な値となります。
  • 同様の理由で、自己記入式ではなく、治療者とともに行う(半構造化面接)方が、正確に測れます。
  • 患者が、強迫症状の出そうな場面を回避するか、家族に代わりに行ってもらっていると、その分、強迫症状にかかる時間や苦痛が減ることがあります。たとえば、外出や家事をすると強迫症状が出るので、それを避けて、ほとんどの時間を自宅に閉じこもって過ごしているような場合です。しかし、そのまま回答すると、実際の重症度よりも軽い点数になってしまいます。そのため、回避せずに自分で行った場合を想定して回答します。(家族への巻き込みは、FAS-R日本語版で測定できます。)
  • 改善前、改善後などの時点で調べると、改善の進行度合いがわかります。

参考

Y-BOCS日本語版が載っている書籍:
リー・ベアー [著]2000年「強迫性障害からの脱出」晶文社
上島国利[編集代表]2010年「エキスパートによる強迫性障害(OCD)治療ブック」星和書店
原田誠一[編]2006年「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版
エドナ・B. フォア[著]2002年「強迫性障害を自宅で治そう!」ヴォイス
Y-BOCSを簡易に要約したものが載っている書籍:
原井宏明、岡嶋美代[著]「図解やさしくわかる強迫性障害」ナツメ社
有園正俊[著]、上島国利[監修]「よくわかる 強迫症―小さなことが気になって、やめやめられないあなたへ」主婦の友社

参考文献:
[1]原田誠一[編]2006年「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版
[2]Goodman,W.K., Price,L.H.,Rasmussen,S.A.,et al.(1989)The Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale I. Development, Use, and Reliability.Arch Gen Psychiatry.46(11):1006-1011.
[3]Goodman,W.K., Price,L.H.,Rasmussen,S.A.,et al.(1989)The Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale II. Validity.Arch Gen Psychiatry. 1989;46(11):1012-1016.
[4]Gail Steketee, Teresa Pigott, “Obsessive Compulsive Disorder: The Latest Assessment and Treatment Strategies”, 2006.Compact Clinicals
[5] アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2023)「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

メモ

CY-BOCS・・・子ども用。
Y-BOCSⅡ・・・Y-BOCSの次のバージョンですが、まだそれほど使われてはいません。
DY-BOCS・・・強迫症状を次元に分けて評価するもの。これも研究者が使う程度。

*Y-BOCS:Yale-Brown Obsessive-Compulsive Scale エール大学、ブラウン大学