4-5.漂白剤~強迫症で過剰な警戒をしない

(2015.3.23→2020.5.11修正)著者:有園正俊 公認心理師

強迫症/強迫性障害(OCD)のために、洗濯、洗浄の強迫行為をする人は多いのですが、漂白剤、トイレの洗浄剤、カビ取り剤などを過剰に警戒して、使えないという人もよくいます。
「混ぜるな危険」と表示されているのを見て、「混ぜてもいないのに、うっかりすると危険」と思い、うかつに変な使い方をしていないか、ちょっと触れたけれど大丈夫かと疑念がよぎってしまうためです。
また、漂白剤に使われる次亜塩素酸ナトリウムは、除菌、殺菌としても用いられることから、強迫行為として過剰に使ってしまう人もいます。
このページでは、それらの洗剤、薬剤の解説をします。

主な成分

洗濯の漂白剤:・・・塩素系:次亜塩素酸ナトリウム、酸素系:過酸化水素
台所の除菌洗剤・・・次亜塩素酸ナトリウムのほかに、界面活性剤という洗剤などが含まれている。

次亜塩素酸ナトリウムとは?:

消毒・除菌のために、家庭や産業のさまざまな場面でよく使われます。カビ取り剤にも使われます。水道水を作るときの塩素消毒にも用いられますが、水道水の塩素は非常に薄い濃度なので問題がありません。
プールのカルキでよく使われる次亜塩素酸カルシウムは、別の物質です。いずれも次亜塩素酸なので、塩素の臭い(カルキ臭)がします。

分子式はNaClO=塩(NaCl)に酸素原子が1つ付いたものです。
酸素原子は、酸素O2、水はH2Oという分子になっていると安定します。しかし、酸素原子が1個だと不安定で、すぐ他の原子とくっついて酸化反応をします。その酸化という化学反応のおかげで、除菌や漂白ができます。
次亜塩素酸ナトリウムは、他の物質(特に酸性の物質)と酸化しやすいため、「混ぜるな危険」と容器に表示されているわけです。

容器から出た次亜塩素酸ナトリウムは、放置しておくと酸素原子(O)が、徐々に他の物質とくっついていきます。そして、塩(NaCl)が残ります。
NaClO→NaCl+O

下の写真:次亜塩素酸ナトリウムの漂白剤を器に入れました。

漂白剤を小皿に出した


何日も、自然に放置しました。

漂白剤を放置して乾燥した状態

塩(NaCl)の結晶が残りました。
ただし、台所の除菌剤・漂白剤は、塩だけでなく界面活性剤などの他の物質も混ざるはずです。

次亜塩素酸ナトリウムを薄めた溶液は、消毒や除菌のために、いろいろな用途で使われますが、濃度が低ければ、撒いても、その後、さっと水で流せばいいのです。もし流しが不十分でも少量の塩が残る程度です。ただ、塩によって、さびたり、変色しやすいものは、注意した方がいいです。

強迫症の人向けの注意点:

1.強迫症になると、普通に行ったことでも、その後「大丈夫かなと?」と不安に思わせる疑念がよぎりやすくなるのが特徴です。
それと、理屈よりも、見てしまった記憶に不安や不快感を感じやすくなります。そのため、強迫症になる前は気にも留めなかった「混ぜるな危険」の「危険」の文字が、意識に残りやすくなってしまいます。そのように、強迫症は、患者さんを心配させたがりますが、漂白剤が、強迫症になる前と変わったわけではありません。そういう思いを真に受けないでいられるといいのです。

2.「わずかでも残ったら危険」と考え、恐れが過剰で、使用法に書かれている以上に何度も過剰にすすいでしまうことが強迫行為になる場合があります。また、漂白剤の容器にさわらない、容器には近づかないというのも、回避になる場合があります。そのような行為を続けていると、強迫症を悪化させてしまうことがあります。

3.漂白剤には「熱湯で使わない」と注意書きされています。それを過剰に解釈して、40度程度のお湯でも漂白剤を使わないようにしている強迫症の人もいました。
熱湯というのは、煮立った素手でさわれないほど熱い温度のことです。温度が高いと、酸化反応が激しくなることがあるためです。夏なら水だって30度以上の温度になってしまうことがあるので、お湯程度なら、警戒する必要はありません。