3.呼吸法・リラックス

著者:有園正俊 公認心理師

1.あらまし

緊張や不安にかられるたり、気を張る作業を続けていると、いつの間にか筋肉も緊張しているものです。
呼吸をあえてゆっくりし、筋肉の力を抜くこと(弛緩:しかん)で、緊張がいくらかゆるみ、脳にも間接的に働きかけ、少し落ち着いていくリラクセーション法です。古くから知られている方法で、心理学でもよく紹介されています。

2.リラクセーション法

2-1.呼吸法

方法:
呼吸の出入りは、鼻からでも、口からでも、構いません。
息を吸ったら、少し止めて、ゆっくりと吐きます。
吐くときに、肩の力を少し抜きます。
吐き終わったら、少し止めます。
息を吐けば、その後、吸いたくなるので、吸うときは、それに任せて、ゆっくりするかどうかなど、あまり意識しなくても構いません。

それ以上の回数やルールが決まっているわけではありません。リラックスしたり、気持ちよくなることが目的なので、正しいルールにとらわれることはありません。

ポイント:
・呼吸の深さ・回数は、状態に合わせて、無理のない範囲で。そうすれば、どこでも誰でもできます。
・吐く秒数は決まっていません。状況に応じて、4-8秒くらいでもいいですし、慣れてきたら、吐く時間と止める時間をもっと長くすると、より効果的です。

・うまくやろうとする必要はありません。
すぐ不安や緊張がなくなるわけではありませんが、いくらでもマシになればいいくらいに思ってやってみてください。

作用:
息をゆっくり吐くことで、自律神経の働きをいくらか穏やかにしていきます。[1]自律神経は、緊張しているときは交感神経が優位、リラックスするときは副交感神経が優位に働くためです。自律神経が緩まると、心臓のドキドキやお腹の緊張なども少し穏やかもになっていくはずです。

2-2.腹式呼吸

基本:
腹式呼吸は、2-1.の呼吸法で、呼吸を少しずつ深くしていきます。つまり、息を吐くときの時間を長めにしていきます。
それに合わせて、吸う時間も、長めにします。
始めは、8秒吐いて(止める時間も含めて)、8秒吸ってを繰り返してもいいです。

腹式呼吸では、肺のふくらみ量が増えるので、その下のお腹が押されて、ふくらみます。逆に、息を吐くときには、お腹が凹みます。お腹に息が入るためではありません。
その感覚をつかむには、お腹に手をあててみると、お腹のふくらみ、凹みが、わかりやすいです。お腹の変化がわかったら、手はお腹から外してOKです。
吐くときに、腹筋に力を入れて、お腹をより凹ませる腹式呼吸もありますが、楽な範囲で行ってください。

さらに効果を得るには:
・姿勢は、背筋を伸ばします。腰の重心を意識して、上体を前後左右に揺らしてみて、体幹が落ち着いた位置がまっすぐです。ただ、体の中心がまっすぐなだけで、両肩は、力を抜きます。
・鼻・口から空気が、喉を通って、肺に入っていく体の感覚にできるだけ注意を向けます。その間に雑念がよぎったり、注意がそれても、できるだけ呼吸と、自分の身体内部の感覚に注意を戻すようにします。
・自分の肺活量に合わせて、1回の息を吐く時間(その後、止める時間も含め)を10,20,30秒・・・と、伸ばしていきます。
1回の呼吸の時間が長くなると、腹式呼吸を3分、5分と続けることも楽になってきます。そうすると、深い落ち着きが得られます。

(喉が痛まない範囲で無理なく行ってください。室内が片付かず、空気にほこりやハウスダストが多い場合は、窓を開けて換気をするといいです。)

2-3.筋弛緩法

体の筋肉をゆるめることで、精神的にもリラックスをもたらします。
リラクセーション法では、息を吐きながら、肩、腕の力を抜くようにします。

息をゆっくり吐きながら、肩や腕の力を抜く
息をゆっくり吐きながら、肩や腕の力を抜く

体の筋肉に力が入っているかわかりにくい場合、まず体の部分ごとに、あえてぎゅっと力を入れます。(5-10秒間)その後、急に力を抜いて、しばらくそのままでいます。15-20秒くらい。
これを体の各部(首、両肩、両腕、胸、背中、お腹、両腿、両足・・・)ごとに行っていきます。(漸進的筋弛緩法)

筋肉にあえて力を入れてからゆるめる
筋肉にあえて力を入れてからゆるめる

不安を伴う症状にとらわれているときは、顔の周りや、首、肩、など胸より上の筋肉が、緊張しているはずです。とらわれから、注意を自分の体に向け、特に肩や頭など上半身の緊張を観察してください。そして、筋肉の緊張に気づいたら、その筋肉をゆるめます。

運動は、筋肉の張力をゆるめることで、筋紡錘(きんぼうすい:筋肉の中にある張力を感じるしくみ)から神経で脳に伝わり、リラックス効果をもたらす。[2]p100「運動すると体の筋肉の張力がゆるむので、脳にフィードバックする流れが断ち切られる。体の方がい落ち着いていれば、脳は心配しにくくなるのだ。」[2]p118

3.緊張・精神疾患とリラクセーション

緊張しやすい人は、普段の日常生活で、リラクセーション法の時間をあえて持つようにするといいです。

パニック障害:
パニック発作などで過呼吸になる人は、そのような状態になる前から、吐くことをゆっくり目に行います。吸うときは、あまり意識せず。吐くのを止めれば、自然に吸い込むので、それに任せます。そして、先の心配が頭によぎっても、その想像はなるべくしないで、今に注意を向けて過ごします。

社交不安、対人恐怖:
苦手な人前で話さないといけない、発表や試験など不安、緊張を起こしやすい場面で用います。
そのような場合、1分前後のごく短時間で、息をゆっくり吐いて、肩の力を抜くだけでもいいです。

強迫症・強迫性障害(OCD):
・OCDの根本的な解決策ではありません。
・エドナフォアの本[3]p142-146には、落ち着きの呼吸法、落ち着きのカウントダウンと書かれていますが、根本的な内容は似ています。
・リーベアーの「強迫性障害からの脱出」[4]p258-265筋弛緩法と腹式呼吸が載っています。[4]p311には「恐怖症やパニック障害など、別の種類の不安障害の治療に用いてとてもうまく行っているが、OCDの治療にはほとんど役に立たないことに気づいている。」そうです。

4.注意の向け方

4-1.心理学でのマインドフルネスの呼吸と腹式呼吸の違い

現代の心理学で用いらているマインドフルネスでも、呼吸に注意を向ける瞑想(サマタ瞑想)が紹介されています。サマタ瞑想では、呼吸に注意を向け、その様子を観察することにできるだけ集中します。そこでは、呼吸の方法は、意図的に変えないで、自然に任せた「今の」呼吸をただ観察するような方法です。
しかし、腹式呼吸では、意識して呼吸の方法を変えます。
現代のマインドフルネスでも、腹式呼吸や姿勢をた正すことをしてはいけないわけではありません。しかし、呼吸の深さや姿勢よりも、注意の向け方が大事になります。
しかし、現代の心理学でのマインドフルネスも、腹式呼吸も、ルーツは共通しているのです。腹式呼吸はヨガでも行われるように、古代インドから伝わる瞑想法が基本にあります。

3-2.感覚制御

音、光、情報を減らして、静かに過ごすことも、ストレスを減らすことに役立ちます。
テレビ、携帯、PC、ゲームのように機械を使う作業は、脳が機械のペースに合わせてしまうため、やっている際中は、注意がそこに向いていても、終われば、それほどリラックス感が得られていないこともよくあると思います。
そこで、そのような機械の操作を止めて、室内の照明を消して、静かに過ごすことで、落ち着くことがあります。
その分、注意を自分の体や顔に向けて、緊張したり、疲れていないか観察します。緊張や疲れに気づいたら、それをほぐすように体を動かしたり、呼吸法をするといいかもしれません。

また、次のようなことも、注意の向け方を変えて、落ち着くことに役立つことがあります。
例:
窓を開けて(網戸は閉めて)外気を取り入れたり、外の明るさ、音に耳を傾ける、
アロマのような香りを用いる、
観葉植物やろうそくの炎のように、静かなものを眺める

ロウソクの炎
アロマやろうそく

*メモ

緊張=筋肉の収縮が持続している状態。心拍数は上昇。呼吸が激しくなる。交感神経が働いている。
腹式呼吸をする→脳内の扁桃体の活動が落ちつく→間脳にある視床下部(自律神経の中枢)によって、自律神経のうちの副交感神経を作動させる。緊張がほぐれる。

参考

呼吸、弛緩を用いたリラクゼーションの方法は、いろいろな本やネットで紹介されています。
[1]下村晴彦「認知行動療法 第6章」放送大学教育振興会2014
[2]ジョン.J.レイティ[著]「脳を鍛えるには運動しかない!」NHK出版2009
[3]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士(片山奈緒美訳)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE
[4]リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」 晶文社

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