著者:有園正俊 公認心理師
マインドフルネス(mindfulness)は、元々は南アジアの仏教で、瞑想での気づきを意味する言葉で、それを英語に訳したものです[1]p18。その瞑想法を心理学で用いるようになりました。
「今」に注意を向けて、気づいていくことで、とらわれている考え、怖れ、不安など嫌な感情から離れることができます。
ティク・ナット・ハンによると「マインドフルネスは、今この瞬間に気づき目覚めているというエネルギーです。それは、人生に深く触れることを、一瞬一瞬くりかえしていく実践です」としています(ハン[1]p14)。
マインドフルネスは、さまざまな研究から、ストレス、抑うつ、免疫、疼痛、集中力・記憶力などに効果があると報告されています(ハリウェル[2]p25-27)。
精神疾患への治療としても、うつ病など、多くの精神疾患の治療に用いられています。
目次
1. 感覚と考え
2. マインドフルネスの基本
3. エクササイズ
4. 応用
5. 本
1. 感覚と考え
頭の中の意識には、考え、感覚、感情がよぎります。それらを区別します。
1-1)感覚とは
言葉を使わずに、動物でも感じられること。マインドフルネスでは、いろいろな感覚に気づいていきます。
視覚(見えるもの)
聴覚(聞こえる音)
触覚(ふれた感覚、温度、風・圧力)
味覚(味)
嗅覚(臭い)
体の内部の感覚(痛み、疲れ、空腹感など)
固有受容覚(筋肉を使うときや関節の曲げ伸ばしによって生じる感覚)
前庭覚(バランス、重力、加速度を感じる感覚。内耳の前庭で感じる。)
1-2)考えとは
考えには、言葉で表せるものと、視覚的な映像とがあります。感情は、考えに伴うものですが、区別します。1つの単語でも、意味をもちますが、言葉がつらなって文になると、より複雑な意味をもちます。
嫌な考えが、思い浮かんでも、それを排除しません。特定の考えにとらわれなければいいのです。自分から頭の中で想像を思い浮かべることは、その想像にとらわれやすくなるので、意識して行わない方がいいです。

2. マインドフルネスの基本
2-1)今、この瞬間に、注意を向ける
精神的に不調なときは、
過去のことを「ああしておけばよかった」「**さんに、**と言われた」などと気にして嫌な感情に陥ったり、
将来、「また悪いことが起きないか」「本当に大丈夫か」と心配する考えにとらわれて、頭の中でぐるぐるしてしまっていませんか?
過去や将来のことに目が向き過ぎているのです。
マインドフルネスでは、「今」に注意を向けます。
今という瞬間は、すぐに過去になってしまうので、常に注意を「次の今」に向けていきます。
何かの考えが思い浮かんでも、その考えに気づくだけで、次の「今」に注意を移していきます。
図の中心が自分、矢印が注意を向ける方向です。
上の図が、考えにとらわれやすくなっている場合です。

次の図は、マインドフルネスで、注意の向け方を、いろいろな感覚に広げた場合です。

2-2)気づいたものを、あるがまま観察する
感覚、考え、感情が、頭によぎったと、気づくだけです。
例:見えるものが「赤い」「丸い」、
触ったものが「冷たい」「固い」、
口に入れたお菓子が「甘い」「やわらかい」
肩が凝っている、お腹が鳴っている、
といういように、ただ感覚に気づくだけです。言葉で、描写しなくてもいいです。
できれば好奇心をもって、注意を向ける範囲を広げていくといいです。
2-3)良い悪いの評価をしない。
マインドフルネスでは、頭によぎることを、いい、悪いなどと評価をしません。
「好き」「嫌」という感覚が思い浮かぶのは、自然なことですが、嫌なものでも排除をしません。
どのような考え、感覚も、そういうものがあるのだと肯定し、気づくだけです。
悪い評価をして、それをなくそうとしたいなどと思って、やり始めると、それにとらわれてしまいます。
**したいという欲求へのとらわれを手放して、次の今に注意を切り替えていくことが目標です。
2-4)うまくできなくても、あるがまま。
「今」に100%集中できなくても構いません。集中度が30%、50%でも、それだけ考えのとらわれから、離れられたことになります。
元々は、仏教の修行法ですので、上達するには、さまざまなエクササイズを実践していくことが必要です。それによって、集中力や効果が、徐々に増していきます。
3.エクササイズ
3-1)感覚への気づきを広げる
上記1-1)のさまざまな感覚に気づいていけるようにするためのものです。
3-1-1)レーズン・エクササイズ
レーズンを使うことが代表的ですが、他のものでも構いません。
初めてレーズンを見た人のつもりになって、レーズンの一粒を手に取って、細かく観察していきます。
色、形、しわの様子という見た感覚、
さわって固さ、重さ、粘っこさなどの触覚
鼻に近づけて臭いをかぐ嗅覚
そして、口に含んだときの感触、噛んだときの味わいを
ゆっくり気づいていきます。(シーガルら[3]p63-70,81)
3-1-2)感覚別エクササイズ
物事を細かく観察するほど、特定の考えにとらわれることから離れられます。(ハリウェル[2]p31-35でも紹介)
例1:聞く
今、どんな音が聞こえるか、耳を澄ませて、いろいろな音に耳を傾けます。音を探すというより、音の方から耳にやってきてくれることを待つといいです。
エアコンの音、道路を通る自動車の音、虫の声、風の音・・・そのようにして、注意の幅を広げていきます。
例2:見る
外の景色、草木、空、室内の物、壁、床、何でもいいです。今まで見慣れたものでも、どんな形か、色、模様・・・細かく観察していきます。細かく目で追うほど、感覚の正解が広がっていきます。
例3:体で感じる
温度、風、服が体にふれる、足が床についている、右手で左手に触る・・・これらも「今」の感覚です。
例4:体の感覚(ボディスキャン)
自分の体を、CTやMRIで観察するように、各部の状態がどうか観察します。
頭から足の指先にかけて、緊張、痛み、違和感・・・、じっくり観察していきます。(シーガルら[3]p82-83、カバット[4]p115-140)
3-2)呼吸とサマタ瞑想
3-2-1)呼吸
呼吸にあえて注意を向け、気持ちを集中させます。
鼻や口から出入りしている息に注意を向けます。始めは、「吸う、吐く」と言葉で唱えても構いません。
その間、音が鳴ったり、雑念がわいても、また呼吸へ注意を戻していきます。
ティク・ナット・ハンによると、呼吸はできるだけ穏やかで、入ってくる息は深く、出ていく息はゆっくりであるといいです。そして、
「息を吸いながら、体に気づく。息を吐きながら、体の力を抜く」
というのが、ブッダによる呼吸法だそうです。そして、呼吸を通して。自分の体に安らぎと調和をもたらしていきます[1]p26。
呼吸へのマインドフルネスで、腹式呼吸が書かれている本(カバット[4]p81-90)もありますが、それはリラックスの効果を兼ねたものです。マインドフルネスでは、必ずしも腹式呼吸が必要なわけではありません。
3-2-2)サマタ瞑想
呼吸、ろうそくの炎など一つのことに集中し続ける瞑想です。
他に注意がそれても、再び一つのことに注意を戻す。それを繰り返します。
姿勢:
マインドフルネスでは、姿勢の作法は、それほど厳密ではありません。しかし、仏教、禅、ヨガでは、姿勢を正すことで、呼吸もスムーズとなり、心も安定してくると考えられています。調身調息調心と言います。(萩野ら[5]p132-144)
座って、背筋を伸ばして、頭のてっぺんから、お尻まで姿勢がまっすぐになるようにします。床や座布団で座ることが難しければ、イスなどでも可。
頭のてっぺんを、糸で引っ張られているイメージで背筋を伸ばしてもいいです。体の中心は心棒が通ったようにまっすぐにしますが、体の左右(肩や腕など)は力を抜きます。
目の開け方も、宗派などによって異なり、開ける、半目を開ける(半眼)、閉じるなどがあります。
3-3)ヴィパッサナー瞑想
ヴィッパサナー瞑想では、一つのことではなく、いろいろなことに気づいていく瞑想です。
常に「今」の感覚に注意を向けて、どのような感覚、考えにきづいても、それをあるがままにして、また次の今に注意をむけることを、ただ繰り返していきます。
注意を向けるのは、どこでもOKです。
見る、聞くなど体の外の感覚に注意を向けてもいいです。
また、体の内側に注意を向けて、ボディスキャンのような体内の感覚や、呼吸に注意を向けてもいいです。この場合の呼吸は、腹式呼吸でなくても、日常的な息の出入りでもいいのです。
そして、姿勢は、座禅のように座って行う方法もありますが、下記3-4)のように動作を市ながら行う方法もあります。
3-4)体を動かす瞑想
ヴィパッサナー瞑想は、さまざまな動作をしながらでも行えます。 手、足を動かして、何か物を触ってもいいです。
手足の動き、触れた感じ、温度、力のかかり具合、体の姿勢・・・。
歩く、体を動かす、家事や掃除をしているとき・・・。
動作は、できればゆっくり。
身体に不自由なところがあれば、動かせる範囲で構いません。
外部サイト:YouTube動画
手動瞑想(座って、手を動かしていきます) 「プラユキ・ナラテボー師 瞑想実践」
歩く瞑想 「ヤタワラ・パンニャラーマ【花と瞑想の会②】~歩く瞑想の説明~」
OCDサポート「外へ出ませんか 歩くマインドフルネス」
3-5)時間について
1,2分でも構いません。自分の生活スタイルに合わせて、短時間でもこまめに行うといいです。
慣れてくれば、徐々に時間を長くし、10分、20分、30分と行います。頭の中がすっきりとした感じが得られるには、通常、20分以上が望ましいです。
3-6)単語を唱える方法もある
思い浮かぶ考えを、「雑念」「妄想」と名詞をつけて、それを唱えることを繰り返し、そこにとらわれない方法もあります。(ラベリング)
「今」している動作をただ単語を唱えます。(実況中継)特定の単語を唱えることで、今に集中し、雑念に流されることを抑えられます。
例:
・歩く瞑想のとき、足を「上げます」「送ります」「おろします」と唱えながら、動かしていきます。
・サマタ瞑想の呼吸で、息を吸って、お腹がふくらんでいるときに「ふくらみ」、息を吐いて、縮んでいるときに「ちぢみ」と唱えます(熊野[6]p30-33)。
3-7)電子機器は使わない方がいい
PC、携帯・スマホ、テレビの視聴、音楽を聞く、ゲームをするなどの行為は、嫌な考え、感情から一時的に離れられる効果はあります。 しかし、その間、機械に合わせた思考が続いているので、気そらしにはなっても、脳が、マインドフルネスの効果を得ることは難しいです。
4. 応用
4-1)距離をあけて受け止める
「何とかしよう」と自分から動く状態=Doingモード
状況をあるがまま受け入れた状態=Beingモード
仕事、日常生活、遊びで、物事を成し遂げていくためには、Doingモードで行います。
しかし、精神的に不調で嫌な考えにとらわれているときには、それをなくそうとするDoingモードでは、かえって、その考えにとらわれて、苦痛になることがあります。
シーガルの本では、<することモード>と訳され、(うつ病患者の)主観では物事が望ましい状態でないという不一致に、注目し過ぎることで、不満足感が繰り返されるように感じられる(シーガルら[2]p41)。
それに対し、Beingモードでは、そのとらわれから、少しずつ距離を開けて、あるがまま、ただ受け止めていく。シーガルの本では、<あることモード>と訳され、不一致を取り除こうという行動をしないで、受容し、そのままにさせておくという内容が書かれていた(シーガルら[3]p42-43)。
マインドフルネスによって、Beingモードをトレーニングすることで、嫌な考えや感情にとらわれずに、距離を開けていく能力が増していきます。
強い感情が生じているときは、通常、自分自身で感じる主観的になっています。意識の中で、自分の中心から、距離を開けて観察していきます。(脱中心化)(シーガルら[3]p34)
4-2)いろいろな精神症状の治療で用いられる
精神症状の例
・うつ病・・・仕事を休んで、横になっていても、頭の中は、「次に職場に行ったときに仕事ができるだろうか」「仕事がはかどらなくて、他の社員に何か言われないだろうか」など、否定的な考え、心配で、頭の中がぐるぐるして、気が休まらない。
・強迫症/強迫性障害(OCD)・・・強迫観念では、汚れ、火の元などへを警戒した考えにばかり注意が向いている。
・感情の起伏が激しく、家族とのトラブルが繰り返される場合・・・その感情が起きたのは、**のせいだからと、口論する、攻撃する、他の行為で憂さ晴らしをするなど、気持ちが治まるまで執着するDoingモードになっている。
このような症状は、マインドフルネスだけで改善できるわけとは限りませんが、とらわれた状態の緩和に役立つ場合があります。
マインドフルネスは、いろいろな認知行動療法の技法と組み合わせて行われます。
例えば、認知療法、アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)、感情障害の治療で用いられる弁証法的行動療法など。
関心がある方は、そのような治療にくわしい心理の専門家を探して、受けてみることをお勧めします。
5.本
5-1)紹介
一般向け:
[2]エド・ハリウェル[著]、永峯涼[訳](2105年)「マインドフルネス 心を浄化する瞑想入門」
KADOKAWA/角川書店 欧米でのマインドフルネスについて、基本的な内容が書かれている。
ティク・ナット・ハン[著]、島田啓介、馬籠久美子[訳](2022年)「ティク・ナット・ハンの幸せの瞑想 マインドフルネスを生きるプラムヴィレッジの実践」徳間書店 ベトナム出身の禅僧、学者で、ベトナムでの平和運動の後、フランスへ亡命した。教えも仏教的で、瞑想に慈悲、愛の観点が含まれる。
[5]荻野淳也、木蔵シャフェ君子、吉田 典生(2015年)「世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門」日本能率協会マネジメントセンター
熊野宏昭(2025年)「実践!マインドフルネス:今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン」[注意トレーニング音源付]サンガ新社 ACTという心理療法のようにマインドフルネス以外の解説も多く含まれる。
専門書:
[3]Z.V. シーガル、J.D. ティーズデール、マーク ウィリアムズ、Zindel V. Segal、John D. Teasdale、J.Mark G. Williams[著]、越川 房子[訳] (2007年)「マインドフルネス認知療法―うつを予防する新しいアプローチ」北大路書房 うつ病での反芻などの症状への治療にマインドフルネスを用いた内容。
[4]J.カバットジン[著]春木豊[訳](2007年)「マインドフルネスストレス低減法」北大路書房
5-2)旧版での参考文献
[1]ティク・ナット・ハン[著]、島田啓介、馬籠久美子[訳](2013年)「ブッダの幸せ瞑想」サンガ(上記の旧版)
[6]熊野宏昭(2016年)「実践!マインドフルネス:今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン」サンガ(上記の旧版)
