著者:有園正俊 公認心理師
マインドフルネス(mindfulness)は、元々は仏教の瞑想法での気づき(サティ)という意味です。それを心理学で、用いるようになりました。
瞑想といっても、座禅のように座って行うものだけではなく、いろいろな動作を行いながらするものもあります。
そのような瞑想で、いろいろなことに気づいて、否定せずに受け止めていくことがマインドフルネスです。
瞑想中も、いろいろな考えが思い浮かぶものですが、その考えをそれ以上深く追求しません。次の「今」に注意を切り替えていきます。
マインドフルネスは、病気の有無にかかわらず、誰もが行うことができます。
精神療法としては、始めはうつ病で否定的な考え・感情にとらわれている症状の治療に用いられました。その後、多くの精神疾患の治療に用いられています。
目次
1. 感覚と考え
2. マインドフルネスの方法
3.エクササイズ
4. 応用
1. 感覚と考え
意識には、考えと感覚とがよぎります。
1)感覚とは
言葉を使わずに、動物でも感じられること。
視覚(見えるもの)
聴覚(聞こえる音)
触覚(ふれた感覚、温度、風、重さ)
味覚(味)
嗅覚(臭い)
体の内部の感覚・痛覚(お腹の動き、便意、尿意、痛みなど)
固有受容覚(筋肉を使うときや関節の曲げ伸ばしによって生じる感覚)
前庭覚(バランス、重力、加速度を感じる感覚。内耳の前庭で感じる。)
2)考えとは
考えには、自然に思い浮かぶものと、自分で意図して考えるものとがあります。
2. マインドフルネスの方法
1)今、この瞬間に、注意を向ける
精神的に不調なときは、
過去のことを「ああしておけばよかった」「**さんに、**と言われた」などと気にして嫌な感情に陥ったり、
将来、「また悪いことが起きないか」「本当に大丈夫か」と心配する考えにとらわれて、頭の中でぐるぐるしてしまっていませんか。
過去や将来のことに目が向き過ぎてしまってるのです。
そのため、マインドフルネスでは、「今」に注意を向けます。
今という瞬間は、すぐに過去になってしまうので、常に注意を「次の今」に向けていきます。
何か考えが思い浮かんでも、その考えに気づくだけで、次の「今」に注意を移していきます。
図の中心が自分、矢印が注意を向ける方向です。
上の図が、考えにとらわれやすくなっている場合です。
次の図は、マインドフルネスで、注意の向け方を、いろいろな感覚に広げた場合です。
2)気づいたものを、あるがまま観察する
頭によぎるものについて、深く考えず、推測せずに、気づくだけに留めます。
例:見えるものが「赤い」「丸い」、
触ったものが「冷たい」「固い」、
口に入れたお菓子が「甘い」「やわらかい」
肩が凝っている、お腹が鳴っている、
といういように、ただ感覚に気づくだけです。
できれば好奇心をもって、注意を向ける範囲を広げていくといいです。
3)良い悪いの評価をしない。
マインドフルナスでは、頭によぎることを、いい、悪い、あってはいけないなどと評価をしません。
「好き」「嫌」という感覚が思い浮かぶのは、自然なことですが、嫌なものでも排除をしません。
どのような考え、感覚も、そういうものがあるのだと肯定し、気づくだけです。
否定や悪い評価をすると、それを「どうにかしたい」Doingモードになってしまいます。
4)うまくできなくても、あるがまま。
「今」に100%集中できなくても構いません。集中度が30%、50%でも、それだけ考えのとらわれから、離れられたことになります。
3.エクササイズ
1)さまざまな感覚に注意を向ける(ヴィパッサナー瞑想)
「今」のいろいろな感覚、考え、動きに気づきを広げていきます。
物事を細かく観察するほど、特定の考えにとらわれることから離れることになります。
例1:聞く
耳をすましてみてください。
今、どんな音が聞こえるか、耳を澄ませて、いろいろな音に耳を傾けます。
エアコンの音、外の道路を通る車の音、虫の音、風の音・・・そのようにして、注意の幅を広げていきます。
例2:見る
外の景色、草木、空、室内の物、壁、床、何でもいいです。今まで見慣れたものでも、どんな形か、色、模様・・・細かく観察していきます。細かく目で追うほど、感覚の正解が広がっていきます。
例3:体で感じる
温度、風、服が体にふれる、足が床についている、右手で左手に触る・・・これらも「今」の感覚です。
例4:体の感覚(ボディスキャン)
自分の体を、CTやMRIで観察するように、各部の状態がどうか観察します。
頭から足の指先にかけて、緊張、痛み、違和感・・・、じっくり観察していきます。
以上の他にも、臭い、味、重力、バランス(平衡感覚)など、いろいろな感覚があります。
どのような感覚であれ、常に次の「今」の感覚に注意を向けていくのが、ヴィッパサナー瞑想です。
2)サマタ瞑想
一つのことに集中し続ける瞑想です。ただし、注意を向けていること以外のことに気づいても、構いません。そこで、再び特定のことに注意を戻すことで、コントロールできる能力が養われて行きます。
例1:呼吸に注意を向ける
鼻や口で吸ったり吐いたりしていることに注意を向けてください。呼吸を意識して行い、それに集中していきます。
その間、音が鳴ったり、雑念がわいても、ただ気づくだけにします。そして、すぐに呼吸へ注意を戻してください。
姿勢:
できれば背筋を伸ばして、頭のてっぺんから、お尻まで姿勢がまっすぐになるようにします。頭のてっぺんを、糸で引っ張られているイメージで背筋を伸ばしてもいいです。体の中心は心棒が通ったようにまっすぐにしますが、体の左右(肩や腕など)は力を抜きます。
注意:
腹式呼吸やリラックス法ではないので、呼吸の深さを変える必要はありません。
3)体を動かす瞑想
マインドフルネスは、さまざまな動作をしているときでも行えます。 手、足を動かして、何か物を触ってもいいです。
手足の動き、触れた感じ、温度、力のかかり具合、体の姿勢・・・。
歩く、体を動かす、家事や掃除をしているとき・・・。動作は、できればゆっくり。
身体に不自由なところがあれば、動かせる範囲で構いません。
外部サイト:YouTube動画
手動瞑想(座って、手を動かしていきます) 「プラユキ・ナラテボー師 瞑想実践」
歩く瞑想 「ヤタワラ・パンニャラーマ【花と瞑想の会②】~歩く瞑想の説明~」
OCDサポート「外へ出ませんか 歩くマインドフルネス」
4)時間について
1,2分でも構いません。自分の生活スタイルに合わせて、短時間でもこまめに行うといいです。
慣れてくれば、徐々に時間を長くし、10分、20分、30分と行います。脳が変わるには、1日30分以上が望ましいです。
5)単語を唱える方法もある
思い浮かぶ考えを、「雑念」「妄想」と名詞をつけて、それを唱えることを繰り返し、そこにとらわれない方法もあります。(ラベリング)
「今」している動作をただ単語を唱えます。(実況中継)特定の単語を唱えることで、今に集中し、雑念に流されることを抑えられます。
例:
歩く瞑想のとき・・・足を「上げます」「送ります」「おろします」と唱えながら、動かしていきます。
サマタ呼吸のとき・・・腹式呼吸でお腹がふくらんでいるときに「ふくらみ」、縮んでいるときに「ちぢみ」と唱えます。
6)電子機器は使わない方がいい
PC、携帯・スマホ、テレビの視聴、音楽を聞く、ゲームをするなどの行為は、嫌な考え、感情から一時的に離れられる効果はあります。 しかし、その間、機械に合わせた思考が続いているので、気そらしにはなっても、脳が、マインドフルネスの効果を得ることは難しいです。
4. 応用
1)距離をあけて受け止める
「何とかしよう」と自分から動く状態=Doingモード
状況をあるがまま受け入れた状態=Beingモード
仕事、日常生活、遊びで、物事を進めていくためには、Doingモードが必要です。
しかし、精神的に不調で嫌な考えや感情のコントロールが難しいときには、Doingモードがうまくいかず、嫌な考えや感情にとらわれてしまい、苦痛になることがあります。
そのとらわれから、少しずつ距離を開けていき、あるがままの状態をただ受け止めていくのがBeingモードです。
マインドフルネスによって、Beingモードをトレーニングすることで、注意をコントロールする能力が増していきます。
強い感情が生じているときは、通常、自分自身で感じる主観的になっています。意識の中で、自分の中心から、距離を開けて観察していきます。(脱中心化)
2)いろいろな精神症状の治療で用いられる
精神症状の例
・うつ病・・・仕事を休んで、横になっていても、頭の中は、「次に職場に行ったときに仕事ができるだろうか」「仕事がはかどらなくて、他の社員に何か言われないだろうか」など、否定的な考え、心配で、頭の中がぐるぐるして、気が休まらない。
・強迫症/強迫性障害(OCD)・・・強迫観念にとらわれているとき、強迫の対象となっているもの(汚れ、火の元など)と、頭の中の考えにばかり注意が向いている。
・感情の起伏が激しく、家族とのトラブルが繰り返される場合・・・その感情をどうしようかというDoingモードになって、そこにばかり注意が向いている。
このような症状は、マインドフルネスだけで改善できるわけとは限りませんが、とらわれた状態の緩和に役立つ場合があります。
例1:特定の考えにばかり注意を向けていないで、自分の体に注意を向けてみます。そのような身体内部の感覚に気づいて受け止めていきます。
例2:嫌な感情に駆られて、将来のことが気になっても、それに気づくだけで追及せず、「今」できることに目を向けます。
マインドフルネスは、いろいろな認知行動療法の技法と組み合わせて行われます。
例えば、感情障害の治療で用いられる弁証法的行動療法でもマインドフルネスを用います。
関心がある方は、そのような治療にくわしい心理の専門家を探して、受けてみることをお勧めします。
本
一般向け:
熊野宏昭「実践!マインドフルネス」サンガ(2016年)
専門書:
[1]Z.V. シーガル、J.D. ティーズデール、マーク ウィリアムズ、Zindel V. Segal、John D. Teasdale、J.Mark G. Williams[著]、越川 房子[訳] 「マインドフルネス認知療法―うつを予防する新しいアプローチ」北大路書房 (2007年)
[2]J.カバットジン[著]春木豊[訳]「マインドフルネスストレス低減法」北大路書房(2007年)