5.心身に必要な日光

著者:有園正俊 公認心理師

1)あらまし

・外の日光(曇天を含め)を、目や皮膚で感じることが、身体、精神、感情の働きのバランスを保つためには必要です。

・日光に当たることで、皮膚でビタミンDが生成され、身体のさまざまな機能のバランスが保たれます。

・目の網膜で、日光を感じることで、脳のセロトニン神経に働きかけると考えられています。

・うつ病、季節性感情障害に、明るい光を浴びる光療法が有効であることが確認されています。

・健康な人は、日常的に、朝、外に出て、通勤・通学・家事(洗濯物を干す、玄関前の掃除、ゴミ出しなど)を行うことで、外の明るさを目が感じ、心身の調子の安定に役立っていると考えられます。

・精神疾患の悪化した時期に、昼夜逆転、日照の乏しい生活、閉じこもりがちであったなどの経験をする人は、しばしば見られます。

対処のポイント:

昼に、外出するのが理想的です。それが難しい場合、ベランダ、玄関先、開けた窓のすぐそばで、外の景色を見ることでも補えます。太陽を直接見るわけではなく、外の景色を見ることで、太陽光を感じます。

・通常の室内の照明では、照度が足りません。必要な照度を得るには、曇りや雨でも、日中の外の景色を見ることが必要とされます。

・皮膚で太陽光(紫外線を含む)によってビタミンDが生成されるには、ガラスや服で光をさえぎらないことが望ましいです。

・身体や精神の症状など何らかの理由で、朝、起きづらい人は、自分の心身の状態に合わせて行います。正午までには、外の明るさを感じられるといいです。

・外の光を感じるともに、「セロトニンと活性化」に書いたように、歩くなど体を動かすことが望ましいです。

2)ビタミンDと免疫

皮膚に紫外線が当たってプレビタミンD3ができ、それが体温によってビタミンD3に変わります。ビタミンDを受け止めるビタミンD受容体は、体のいろいろな部位にあり、さまざまな働きをしています。くわしい内容は、ライナスポーリング研究所のサイトに書かれています。[1]

ビタミンDの主な働き:

・ビタミンDは、骨の成長、維持、再生に重要です。小腸、骨、腎臓、副甲状腺に働きかけて、体内のカルシウム代謝を調節します。

・細胞の分化と成長を調整します。

免疫を調整します。がん、自己免疫疾患にも関係すると考えられています。

・炎症を抑えるステロイド作用があります。

・ビタミンDは、90%が皮膚で合成され、10%が食事から摂取されます。

・ビタミンD生成に必要な日光照射時間は、国立環境研究所のwebページに書かれています。夏期・日向で15~30分、冬期・日陰で30分~1時間程度です。
・中東および北アフリカ(MENA)地域は、日照時間は長いものの、宗教・文化的な理由で肌を隠すため、ビタミンD欠乏と、それによると考えられるくる病、骨軟化症などの発生率が高いです。[2]

3)太陽光と照度

目が覚めて起きた後、太陽光が目の網膜に入ることで、脳の体内時計をリセットします。セロトニンが、24時間の概日リズムに関わっていることは、科学的に報告されています。[3]
これによって、体全体が睡眠から、日中活動の状態に切り替わります。脳神経でのセロトニン神経が活性化し、メラトニンの働きが減ると考えられます。(cf.6.セロトニンと活性化

朝~昼に、目の網膜が、光の明るさを感じることで、脳神経での反応が切り替わると考えられ、その明るさの度合いを測るために照度が用いられます。
この反応が正常に行われるには、通常の室内の照明では、照度が足りません。

屋外の照度[4]
快晴の青空 100,000ルクス
薄曇り、雲の多い晴天 50,000ルクス
曇り 5,000~30,000ルクス
雷雨・雪で暗い屋外 約2,000-5,000ルクス
室内の照度[5]
室内の窓際から曇り空を見る ~約5,000ルクス
会議室、大型店の店内、学校の実験実習室 500ルクス以上(JIS照明基準)
学校の教室 300ルクス以上(JIS照明基準)

照度計は、スマホ向けのアプリでも無料で入手できます。

4)光療法

・うつ病、季節性感情障害(SAD、俗称:冬季うつ病)に対し、光療法を用いることがあります。

1)「季節性感情障害(冬季うつ病、SAD)でのへの光療法では、2,500ルクスの照明ならば2時間、10,000ルクスならば30分間、浴びることが必要だそうです。」[6,8]

コクラン(*)報告によると、2,3)だそうです。
2)「非季節性のうつ病に対する光療法の有効性は中等度から高い効果がある。短期間の治療並びに朝に光療法を用いること、また睡眠遮断反応者では睡眠遮断法と併用することで、治療反応についてもっとも効果が認められると考えられる。」[7]
3)季節性感情障害については「エビデンスの質は非常に低かったため、光線療法が冬期うつ病の予防に効果的かどうか結論を出すことはできない。」だそうです。[8]

日本の多くの地域では、冬でも屋外の日照で、照度が十分に足ります。そのような地域では、高照度光療法器具は不要です。高照度照明器具は、高緯度の国に住む人、建物の構造や身体の障害のため外の景色を眺めるのが困難な人向けの機器です。
光療法が有効なことは、明らかなのですが、それがセロトニン神経に関連しているということは、間接的にしか証明できません。[9]

参考文献

[1]オレゴン州立大学ライナスポーリング研究所>微量栄養素情報センター>ビタミン>ビタミンD
[2]Bassil D, Rahme M, Hoteit M, Fuleihan Gel H. Hypovitaminosis D in the Middle East and North Africa: Prevalence, risk factors and impact on outcomes. Dermatoendocrinol. 2013;5(2):274-298.

[3]理化学研究所、科学技術振興機構「睡眠・覚醒機能と24時間リズムをセロトニンが束ねる-睡眠・覚醒のサーカディアンリズム形成機構を神経活動レベルで解明-」2012年
[4]松浦邦男「建築工学Ⅰ」朝倉書店
[5]JIS照明基準
[6]Tam EM, Lam RW, Levitt AJ. Treatment of seasonal affective disorder: a review. Canadian Journal of Psychiatry 1995;40(8):457‐66
[7]Cochrane「非季節性うつ病に対する光療法」2004
[8]Cochrane「冬期うつ病に対する光線療法」2019
[9]Simon N. Young. How to increase serotonin in the human brain without drugs. J Psychiatry Neurosci. 2007 Nov; 32(6): 394–399.
*Cochrane(コクラン)・・・治療法の科学的根拠(エビデンス)を検証する世界規模の専門家のネットワーク。

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