6.セロトニンと活性化

1.まえがき

脳神経では、セロトニンという神経伝達物質が、感情、記憶、衝動、攻撃性、食欲、睡眠、体温などをコントロールに関わっています。セロトニンがうまく働かないと、これらのコントロールが難しくなると考えられます。
強迫性障害(OCD)、うつ病、不安障害、PTSDなどの治療では、脳神経でのセロトニンに働きかける抗うつ薬が用いられています。しかし、薬以外にも、太陽光、運動などが、セロトニンが働きだすには大事だと言われています。
人の脳神経でのセロトニンは、直接、濃度を測定できないため、科学的にわかっていないことが多いのですが、調べたことをまとめました。

2.セロトニンとメラトニン

2-1)セロトニンとは

セロトニン(serotonin*)は、動植物の中にある物質。
動物でのセロトニンは、神経細胞で神経伝達物質(*)として使われるものと、ホルモン(*)として使われるものとがあります。

神経伝達物質・・・神経細胞が、他の神経細胞とつながっている部分をシナプスと言います。シナプスで、一方の神経細胞で合成した物質を放出して、もう片方の神経細胞の受容体が受け取ることで、情報が伝わりるのですが、ここで使われる物質が神経伝達物質です。神経伝達物質は、セロトニンの他にも多くの種類が発見されています。
ホルモン・・・体内で合成、分泌されて、血液など体液によって体の中を流れ、それを受け取る細胞・組織に働きかけます。

・セロトニンの物質名:5-ヒドロキシ(水酸化)トリプタミン、略称:5-HT
・人体のセロトニンは、大部分(約95%)が(抹消)血液にあり、血管の収縮、腸管での蠕動運動、血小板の凝縮などの働きをします。[1]
・人体でのセロトニンの総量は約10mg。
・脳神経で神経伝達に使われるセロトニンは1~2%。[2]つまり、約0.1-0.2mg

2-2)脳神経でのセロトニンの作用

1.精神
感情、記憶、衝動、攻撃性、などに関連し、コントロールする働きをすると考えられています。しかし、科学的に明らかでない面もまだ多いです。

2.睡眠と覚醒
脳内のセロトニンは、24時間周期のリズムに関わっていて、セロトニンがうまく働かないと、睡眠・覚醒のリズムに影響します。[3]また、目が覚めると、セロトニン神経は、活動(インパルス信号を継続的に出す)を始め、心身が睡眠の状態から活動できるような状態に移ります。[4]

3.痛覚
知覚神経の終末部を刺激して、かゆみ、痛みに関連します。

4.その他
体温、食欲、嘔吐、性、疲労に関係します。

そのため、脳神経のセロトニンの働きが弱まると、精神的な衝動にブレーキが効きにくくなります。

じっとしていられない、
イライラする、
キレやすい(攻撃的)、
抑うつ、
強迫症状、
依存症的な行動(ゲーム、ギャンブル、飲酒、買い物、暴力、自傷、過食など)、
などに、つながる場合があると考えられています。[1,4,5]

2-3)メラトニン

生物の体内での、24時間の周期で変化(概日リズム)、季節による日照時間の変化への反応(光周性)で、重要な働きをするホルモンです。[6]

体内時計、睡眠に関わり、メラトニンが多くなると、体が睡眠の状態に移っていきます。多くの動物では、メラトニンは、睡眠中に多く合成、分泌されます。

脳の松果体で作られますが、その量は、目の網膜が光を感じることでコントロールされます。メラトニンはセロトニンから合成されます。[7]

3.脳神経のセロトニンを活性化するには

人の脳で、セロトニン神経を活性化するための薬以外の方法は、明るい光、運動です。昔の農業が中心の生活では、人々が自然に行ってきたことです。[8]
明るい光(日光)については、「日光が大切」のページをご覧ください。

外の日光が、うつ病などの治療に有効なことは、明らかなのですが、その要因としてセロトニン神経に関連しているということは、間接的にしか証明できません。[8]

運動

・イギリスのガイドラインでは、軽度のうつ病への対処として、認知行動療法の他にグループでの身体活動プログラムが推奨されています。[14]
・運動が、海馬や皮質を含むさまざまな脳領域で細胞外セロトニンと5-HIAA(5-ハイドロキシインドール酢酸、セロトニンの主な代謝物で、尿中の濃度を測定できる)を増加させている。[8]
・有田先生の本[3]によるとリズム運動を続けると、セロトニン神経での電気信号(インパルス)の発生頻度が増えて、セロトニンの分泌が増えるそうです。

運動:歩く、走る、自転車、エアロビックス、足踏み、
呼吸法を含むもの:座禅、ヨガ、太極拳
音楽を使った:ダンス、太鼓・楽器演奏

①[3]によると、リズムを意識して行う。ただ漠然と歩くのでは、効果がないそうです。
②セロトニンの活性化は、開始後、5分くらいから起こります。リズム運動の継続時間は、15~30分が適当。
③セロトニン神経の働きは、疲労物質(乳酸)によって、弱められます。そのため、疲れない範囲で行う。
④なるべく毎日続ける。セロトニン神経の活動レベルが恒常的に上がるには、約100日かかる。

まとめと患者さんなどの体験:

①リズム運動の根拠について
本に書かれているリズム運動が、どの程度の効果があるのか、不明な点が多いです。
・ 以前、掲示板では、小学生の強迫神経症が、リズム運動で治ったというお母様からのメッセージなど、効果があったと言う方が2人いました。あるお母さんは、エレクトーンのメトロノームを使って、子どもにリズム運動をさせたそうです。

②リズム運動、15分以上やるには、自分にあった楽なものを選ぶことが大事だと思います。例えば、足踏みのようなものは、15分以上、毎日やるのは、しんどい。

③約30年前、私も治る過程で、歩き、自転車、腹式呼吸、どれも試してみたことがあります。当時の私は、リズムを意識することはなかったので、そのせいかもしれませんが、補助的な効果でしかなかった感じです。それでも、日中、外に出て、散歩やサイクリングをすることは、どこかリハビリに役立っているような手ごたえは感じていました。

4.食事と脳神経のセロトニン

セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸(*)と、ビタミンB6により作られます。脳内の縫線核(ほうせんかく)から伸びるセロニン神経系の中で合成されます。

神経伝達物質のセロトニンは、外部からの薬や食事では、直接濃度を増やせません。胃腸内や、そこで吸収されて血液に入ったホルモンのセロトニンは、脳内の神経伝達物質として使われません。
それは、血液中の物質、細菌などによって脳神経に影響が起こりにくいように、そのような異物が脳に入り込むことを制限するしくみ(血液脳関門)があるためです。[14]血液脳関門があるため、動物は飢餓や感染症になっても、精神異常をそう簡単に発症しないでいられます。
また、SSRIのような抗うつ薬が、腸で吸収された後、すぐに効果が現れず、効果が見られるには、数週間ほどかかるのも、血液脳関門が影響しています。

そのため、トリプトファンやビタミンB6などを含んだ食品を多く摂っても、通常は、それだけで、SSRIのような抗うつ薬の代わりになることはありません。
ただし、うつ病などで、食事をしない日があるとか、食べるのは特定のお菓子のみというように、栄養があまりに偏っていると、栄養のバランスを整えることで、効果が見らるかもしれません。
血液中のトリプトファンは、血液脳関門を通過できますが、それにはLアミノ酸トランスポーター(LAT-1)を用いるなどしくみは複雑です。[16]炭水化物を採ることで、脳でのトリプトファンの取り込みを促進するそうです。[17]

必須アミノ酸・・・動物の成長や生命維持に必要であるが、体内で合成されないため、食物から摂取するもの。タンパク質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。

5.精神疾患との関連

5-1)セロトニンとOCD

強迫症/強迫性障害(OCD)やうつ病(MDD)の患者さんの脳神経で、セロトニンの濃度を直接、測れないため、セロトニンの濃度が原因であるかどうかも科学的に断定できません。

1980年代、OCDに抗うつ薬のうちセロトニンに働きかける薬(SRI)クロミプラミンが、効果をもたらすことがあるとわかり、その後、SSRIのようなセロトニンに働きかける薬が開発され、OCDの治療に用いられています。現在、他の神経伝達物質に働きかける薬で、OCDに有効なものはまだ見つかっていないため、セロトニンがOCDに関係していると考えられるようになりました。[18]

2009年、日本の放射線医学総合研究所によると「OCD患者の脳内の大脳外側部位(島皮質)で、神経細胞から放出されたタンパク質(セロトニントランスポーター*)が減少している。」という研究がありました。 [19]

セロトニントランスポーター・・・神経の端末にあって、神経細胞から放出されたセロトニンを回収(再取り込み)して,神経伝達を終了させる役割をもつタンパク質です。SRIのような薬は、セロトニントランスポーターに働きかけて、再取り込みを妨害します。そのため、神経細胞から放出されたセロトニン量が減りにくくなると考えられます。

セロトニン神経
[19]

・縫線核から、セロトニン神経は、脳神経の広い領域(大脳、小脳、脊髄など)に、軸索というケーブルを使って情報を送っています。
画像研究で、OCDの患者の脳では、眼窩前頭皮質、帯状回の前部、線条体の尾状核での活動が、一般人に比べ高まっているという報告があり、CSTC系ループ説が考えられています。CSTC系ループは、セロトニン神経系の強い支配を受けます。[20]

5-2)セロトニンとうつ病

・セロトニン(5-HT)システムは、大うつ病性障害(MDD)の病因に関与しています。すべての抗うつ薬は、動物実験で脳のいろいろな部位(海馬、青斑核、扁桃体など)でのセロトニン伝達を増強することが示されています。[21]

5-3)抗うつ薬SRIの作用

セロトニンに働きかける抗うつ薬(SRI:セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンを直接、増やすのではなく、脳の神経細胞から放出されたセロトニンが、再び神経細胞に取り込まれて減ってしまうのを妨害することで、細胞外のセロトニンが減りにくくさせると考えられています。そのため、太陽光を感じたり、運動したりする機会がなく、栄養が極端に偏っていると、元のセロトニンの放出自体が十分なのか疑問です。
元々のセロトニンが少ないと、SRIを服薬しても効果が現れにくい場合が考えられます。
Holckら(2019年)の研究では、うつ病患者で、SSRIの一種のセルトラリンによる薬物療法をした患者のうち、効果が現れなかった患者は、薬物療法を始める前から血漿中のセロトニンが、効果が現れた患者に比べ有意に低かったそうです。この報告では、薬物療法の前に、血漿セロトニンを測定することで、治療効果が現れるかの予測につながると提案しています。[22]

5-3)メモ

・血漿でのセロトニン基準値、0.04ー0.35μg/mL。血小板に取り込まれずに血液中に遊離している。(FALCO臨床検査案内サイト>セロトニン
・血中濃度:100-200μg/L。ほとんどが血小板中に取り込まれている。(日本血栓止血学会>用語解説>セロトニン

参考

[1]脳科学辞典>小林 克典「セロトニン神経系」2012
[2]鈴木映二「セロトニンと神経細胞・脳・薬物」星和書店2000
[3]理化学研究所、科学技術振興機構「睡眠・覚醒機能と24時間リズムをセロトニンが束ねる-睡眠・覚醒のサーカディアンリズム形成機構を神経活動レベルで解明-」2012年

[4]有田秀穂「セロトニン欠乏脳  キレる脳・鬱の脳をきたえ直す」 NHK出版 093 生活人新書  日本放送出版協会2003
[5]脳科学辞典>谷渕由布子「行動嗜癖」2014
[6]Jamie M. Zeitzer, DerkJan Dijk, Richard E. Kronauer,Emery N. Brown and Charles A. Czeisler.Sensitivity of the human circadian pacemaker to nocturnal light: melatonin phase resetting and suppression. Journal of Physiology (2000), 526.3, pp. 695—702.
[7]脳科学辞典>鳥居 雅樹、深田 吉孝「メラトニン」2013

[8]Simon N. Young. How to increase serotonin in the human brain without drugs. J Psychiatry Neurosci. 2007 Nov; 32(6): 394–399.
[14]Depression in adults: recognition and management. Clinical guideline [CG90]Published date: 28 October 2009

[15]脳科学辞典>立川 正憲、内田 康雄、寺崎 哲也「血液脳関門」2015
[16]山下雅俊、山本隆宣、トリプトファン研究の成果から見た中枢性/精神性疲労の誘発メカニズム、2015、帝塚山大学心理学部紀要, 4, 127-134
[17]武田英二、奥村仙示、他「うつ病と栄養」四国医学雑誌 68(1・2), 3-8, 2012-04-25

[18]原田誠一[編]「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版2006

[19]独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター:菅野巖、須原哲也、松本良平「陽電子断層撮像装置による強迫性障害の病態解明研究 強迫性障害患者の脳内ではセロトニンを神経細胞内に取り込むタンパク質が減少する」2009年

[20]Dan J.Stein著「不安とうつの脳と心のメカニズム」星和書店原著2003年、訳2007年[21]Pierre Blier and Mostafa El Mansari.”Serotonin and beyond: therapeutics for major depression“.Published:2013.05 April .
[22]Holck A, Wolkowitz OM,et al.Plasma serotonin levels are associated with antidepressant response to SSRIs. J Affect Disord. 2019 May 1;250:65-70.

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