3-1.発達障害

著者:有園正俊 公認心理師

[1]発達と障害

発達・・・胎児の頃から年月を重ねるうちに、脳や身体が成長し、そのはたらき、他人・社会との関わりも変化していくことです。

発達障害・・・乳幼児までの段階で、脳のはたらきに通常とは異なる部分があり、発達の過程で、日常生活や、社会への参加で困難なことが現われてきます。通常は、幼少期から就学(小学校入学)前に現れますが、その頃には目立たずに、就学以降に困難が現れることもあります。

・知能指数(IQ)によらない・・・発達障害でも、精神遅滞(概ねIQ70未満)のものと、高機能の(IQ70以上)とがあります。高学歴の人もいます。

[2]診断と対処

・人は誰しも、能力での得意不得意、気質の偏りがあるものですが、発達障害と診断されるのは、その傾向が極端な場合です。

・現在の診断基準では、どの程度なら発達障害かという範囲が不明瞭なため、診断は医師によってかなり差があります。

発達障害と診断されなくても、そのような特性を部分的にもつために、生きづらさを感じる人も少なくありません。そのような段階を、発達障害のグレーゾーンと呼ぶことがあります。

発達の障害と人口分布

・診断は、発達の問題を専門に扱っている精神科です。精神科医であっても、診断が確定できる医師は限られます。
・赤ちゃんの頃から子どもの頃の状況がわからないと診断できないので、通常、診断には親(養育者)への質問が必要とされます。
・グレーゾーンの人が、HSP(Highly Sensitive Person)という言葉に、当てはまるのではと考えることがありますが、HSPは研究者間で広く認められた用語ではありません。

対処:
検査・診断の結果がわかったら、自分の特徴と適性の説明を受けることが大事です。

それによって、自分が、社会に適応しやすい範囲を知り、苦手なことにはどう対処していけばいいかを、専門家とともに考えていきます。
しかし、現状では、確定診断ができる医療機関は混んでいて、診断後の対処、支援は、発達障害専門の施設を探して、利用するケースが多いようです。

・幼少期であれば、療育の発達トレーニングを受けることがあります。
・ADHDには、治療薬があります。

[3]発達障害の種類

発達障害の現れ方は、様々です。
診断基準では次の障害があります。
いずれも、社会生活、職業など重要な部分で障害を引き起こしている場合です。
それぞれの障害は関連性があり、一人で複数の障害の特性をあわせもつ人もいます。

1)自閉症スペクトラム障害(ASD)

以前は、広汎性発達障害(PDD)、アスペルガー障害と呼ばれていた障害も含まれます。
その特性がどの程度かは、人によってさまざまで、スペクトラムと呼ばれるように、程度の軽い人から重い人まで一連の広がりが見られます。

診断基準:(DSM-5[1]を元に、わかりやすく言葉に置き換えました)
A 社会でのコミュニケーション、対人での反応
・他の人と会話のやり取りが困難、もしくは異常な近づき方をする
・相手の気持ちを察したり、他人と興味を分かち合うこと、共感することが苦手。
・集団、社会(学校、職場など)への参加が困難。
・表情、アイコンタクト(視線を合わせる)、身振り、手ぶりなど言語以外を含めた総合的なコミュニケーションが苦手。
・人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥。

B 行動・興味
・ 体の動き、物の使い方、言い方で、同じことを何度も繰り返す。(言い方では、必要以上に一字一句にこだわる、オウム返しなど)
・同じもの、方法でないと気が済まない(同一性保持。状況に応じて柔軟に変えられない)、習慣へのこだわり、合理的ではない独自の行動
・興味が、特定のことに限られ、強い。興味をもてるものと、そうでないものとの差が極端。
・特定の感覚への反応が過敏もしくは過少、環境の感じられ方への並外れた興味。(注*1)

C 症状は、発達早期(幼少時期から小学校で集団と関わる時期)から存在する。
学校や集団で求められるものが、本人の能力の限界をこえなければ目立たずに、見過ごされてしまうこともある。

人口の1%程度。男性の比率は女性の4倍。
成人期での自立が困難なことがある。

2)社会的(語用論的)コミュニケーション障害

自閉症スペクトラム障害のA基準のみが当てはまり、B基準を持たない場合です。
・社会的な場面、相手に応じた言葉づかいをすることが苦手。
・相槌、誤解されたときに言い換えたり、調整することが難しい。
・あいまいな表現、ユーモアなどの理解が苦手。
など

3)注意欠如/多動性障害(AD/HD)

注意欠如(AD):
注意が散漫になりやすい。うっかりミスが多い。
一時的な記憶を忘れやすい。忘れ物が多い。
手順が複雑な作業、物事を手順に沿って行うことが苦手。

多動性・衝動性(HD):
じっとしていたり、じっくり物事を行うことが苦手。
順番など状況に合わせて行動を待ち、やりたい衝動を抑えることが難しい。
同年齢の子どもと比べても、極端にその傾向が強い。

ADもしくはHDの症状が12歳になる前からあった。
AD/HDは、年齢ともにいくらか改善していく傾向があり、成人での割合は、子どもに比べ少ない。

4)学習障害(LD)

知的能力には問題がないのに、読むことや書くこと、計算することなど特定のことが極端に苦手。

5)発達性協調運動障害(DCD)

協調運動とは、その人の左右の手、足、胴体、頭などの動きを連動させて、1つの動作を行うことです。
発達性協調運動障害とは、そのような動作が極端に苦手な場合です。
例:
工作での細かい作業が苦手
お箸を使うのが苦手で、ご飯をよくこぼす
体操やお遊戯の振り付けを覚えるのが、他の人に比べ極端に苦手
紙をたたんだり、丁寧に扱うことができずに、ぐしゃぐしゃにしてしまう
ノートやテストのマス目に合わせて文字の大きさを調節できない

4)発達障害の特性

・発達障害を抱えていると、進級・進学、転居、就職など自分を取り巻く状況が変わる時期に、適応が難しくストレスを抱えてしまうことがあります。
・いじめを経験する人も少なくありません。
・そのようなストレスな体験が影響して、二次的に、抑うつ、社交不安障害(対人恐怖)、強迫性障害、適応障害、双極性障害、統合失調症などを発症することがあります。(=二次障害)
・知能に問題がない(高機能)発達障害が、社会に広く知られてきたのは、概ね2000年以降です。そのため、成人の中には、人生の長い期間、発達の問題を見過ごされてきて、近年になって、自分も当てはまることに気づくケースもよくあります。

・発達障害を抱えたお子さんをもつと、親御さんは、子育てに難しさを感じることがあるものです。赤ちゃんの頃から、なかなか泣き止まない、他の子に比べて、歩きだしたり、言葉を話すのが遅いなどです。
・遺伝的な要因が考えられる場合、親や兄弟姉妹も、発達障害と診断されるレベルとは限らなくても、部分的に似たような性格の特性を持っていることがあります。そのため、家庭内でトラブル、ケンカが増えてしまう、虐待が行われることもあります。それが、後天的に子の発達に影響を及ぼす場合もあります。

注釈

*1での、診断基準DSM-5の原文  hyper- or hyporeactivity to sensory input or unusual interest in sensory aspects of the environment 日本語版[1]では、 reactivity(反応)が翻訳されていない。

参考

[1]アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] (2014)「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

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