2-3.強迫症への薬物療法の情報

強迫症/強迫性障害(OCD)の薬物療法で、第一選択肢としてされるのは、抗うつ薬(うつ病の薬)のうち、脳神経のセロトニンに働きかけるSRI(セロトニン再取り込み阻害薬、SSRI、SNRIを含む)です。[10,11]
ただ、SRIの効果は、患者さん自身が、SRIの特徴を知っておいた方が、得やすいと考えられるので、紹介します。
また、薬物療法で用いられることがある抗精神病薬、抗不安薬の特徴についても、一般論を紹介します。

おことわり
薬の処方ができるのは、精神科の医師ですので、主治医とご相談して、服用してください。このページは、強迫症の患者さんを長年支援してきた立場で、一般論のうち患者さんの体験に合致する情報を紹介することを目的としています。OCDサポートでは薬を扱えませんし、個々のケースに責任を負えるものではありません。

目次
[1]セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)
[2]処方のされ方
[3]副作用
[4]効果の感じられ方
[5]セロトニンを減らさない働き
[6]薬のみの限界
[7]抗精神病薬の併用
[8]抗不安薬・睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)への注意
[9]ジェネリック薬
[10]メモ
[11]参考

[1]セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)

[1-1]SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬

セロトニンに働きかける抗うつ薬(SRI)のうち、SSRIはセロトニンだけを取り込みにくくするので「選択的」がついてSSRIと呼ばれます。
SSRIは、日本で4種類、使用できますが、個々のSSRIによって効果の表れ方、副作用の出方が、異なります。
そのため、最初のSSRIで効果が見られない場合、他のSSRIに切り替えることで、効果が現われることがあります。[1]

一般名商品名ジェネリック医薬品コメント
フルボキサミンルボックス、デプロメールフルボキサミンマレイン酸塩OCDへの保険適応薬。副作用が弱いが、効果もそれほど顕著ではない。
パロキセチンパキシルパロキセチンOCDへの保険適応薬。
セルトラリンジェイゾロフトセルトラリンOCDには保険適応されていないが、効果が見られる患者さんは比較的多い。海外ではよく用いられる。
エスシタロプラムレクサプロOCDには保険適応されていないが、効果が見られる患者さんは少なくない。
日本で処方できるSSRI

[1-2]三環系の抗うつ薬  クロミプラミン

一般名:クロミプラミン(clomipramine) 商品名:アナフラニール
三環系はSSRIより古いタイプの抗うつ薬です。三環系のうち、クロミプラミンだけが、脳神経のセロトニンに働きかけ、抑うつ気分、不安を和らげる作用があります。

通常、少量から始め、段階的に増量し、成人は1 日2~4 錠(主成分として50~100mg)を1~3 回に分けて服用します。最大は、1 日9 錠(225mg)。
SSRIに比べ、副作用があらわれる人が多いようです。

[1-3]SNRI セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬

SNRIは、神経伝達物質のうちセロトニンだけでなく、ノルアドレナリンにも働きかけます。
SNRIのうち、強迫性障害に効果があると、アメリカの文献[9]に書かれているのは、一般名:ベンラファキシン 商品名:イフェクサーです。

[2]処方のされ方

・毎日、飲む薬です。
・基本的には、抗うつ薬は、単剤で服用します。
・通常、1日の服薬が少ない量(mg)から始めます。そして、副作用の現れ方など様子を見つつ、段階的に増量していきます。
・薬を減らす、止めるときも、段階的に徐々に行います。

・効果が出るまで、数週間、かかります。その間、あせらずに服薬を続けてください。
・クロミプラミンの効果が現れるまでには6-8週を要する。患者がクロミプラミンに反応するかどうかを見極めるには10-12週まで投与を継続すべきである。高用量が必要である。反応する患者でも完全寛解に至ることは少なく,部分的な改善にとどまる(Goodmanら[7])。
・自分の判断で急に服用を中止したりしないでください。急にやめても、問題ない人もいますが、離脱症状が出る人もいます。

・他のSRIに切り替える場合、服薬中のSRIを1,2週間ごとに段階的に減らし、その一方で、別のSRIを少量から始め、徐々に増やしていきます。[1]

・2007年10月厚生労働省により、すべての抗うつ薬において、24歳以下の患者で自殺念慮及び企図のリスクが増加するとの報告があることを示した上で、リスクと長所を考慮して投与するようを指示されました。

[3]副作用

・飲み始めに、吐き気,眠気,口の渇き,便秘、めまいなどの副作用が出ることがあります。通常は、1-2週間ほどで治まることが多いです。
気になる場合は、医師に相談してください。

副作用は、個人差もありますし、SRIによっても異なります。

・パロキセチンでは発売元のGSK社HPによると、副作用の発現率は49.8%(324/650例)でした。その主な内容は、嘔気(14.3%)、眠気(13.1%)、口渇(9.2%)、めまい(6.0%)などだそうです。
・セルトラリン・・・口の乾きや便秘などの不快な副作用が比較的少なくない。

その他の副作用
腹痛、食欲不振、動悸、血圧上昇、発疹、貧血、尿が出にくい、だるい、脱力感、発汗、耳鳴り、ほてり、胸痛、性機能異常、性欲低下。
重大な副作用(めったにないそうです。0.1%未満)
痙攣、せん妄、錯乱、幻覚、妄想、意識障害、セロトニン症候群など。
参考:[3-6]

[4]効果の感じられ方

「OCDにSSRIの効果が現われるのには6ー8週を要し、効果判定までに10-12週は、SSRI単剤による治療を継続することが一般的である。」[1,2]
「クロミプラミンは、効果がある場合、投薬開始後、比較的早い時期に、特に強迫衝動に関して効果がある。患者は「気分は変わらないが、繰り返したい気持ちが少し軽くなる」と報告することがよくあります。(山上敏子[8])
患者さんの話では、効果の感じられ方は、ぼんやりとしていて、気が付きにくい人も多いようです。効いた場合、強迫行為をしたい衝動がいくらか和らぐ、気分をよくする感じだそうです。
気分に働きかける薬ですので、抑うつな気分の改善も期待できます。
しかし、考え方、ルール、行動を直接、変えるわけではないので、強迫的な衝動がいくらかでも和らいだ時に、それまでの強迫的な行動を変えていかないと、強迫症の改善にはつながりにくいです。
そのため、強迫症への心理教育、認知行動療法を併用するといいのです。
また、強迫的な衝動が和らぐタイミングを逃してしまうと、その後、何カ月も服用を続けていても効果は現れにくいです。その場合、別のSRIに切り替える方法もあるので、医師に相談してください。

[5]セロトニンを減らさない働き

脳の中には、多くの神経細胞が張り巡らされています。神経細胞は、枝を伸ばし、他の神経細胞と接続します。その接続部分をシナプスといい、神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)を使って、情報を伝えます。
神経細胞から放出されたセロトニンは、隣接する神経細胞に情報を伝えると、細胞の中に取り込まれてしまいます。また、放出された後、隣接する細胞に情報を伝えられなかったセロトニンも、元の細胞に再び取り込まれて、再利用されます。
そこで、セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)は、神経細胞へ取り込まれてしまうことを妨害して、シナプスでのセロトニンが減らないようにすると考えられます。
SRIにセロトニンが含まれていて、直接、増やすわけではありません。
強迫症では、脳の中で、大脳皮質、線条体、視床などの部位の活動が感情になっていますが、これらの部位は、セロトニン神経が張り巡らされています(参照:4-1.OCDと脳>2-3.CSTC回路)。そのため、セロトニンに作用する薬によって、効果が得られる場合があると考えられます。
セロトニンの働きについては、健康の情報>7.セロトニン神経と光・運動・食事を参考にしてください。

[6]薬のみの限界

SSRIの効果を感じられた人の割合は、報告によって差がありますが、40-70%の範囲です。
例:デプロメールの添付文書[2]に「強迫性障害患者における改善率は50.0%(37/74例)であった。(中等度改善以上)」と書かれています。

しかし、OCDお話会の参加者に質問した結果では、効果が見られなかった人の割合がそれよりも多いです。ただし、患者会では、治療がうまく行かない人が参加しやすい傾向はあります。

日本では、薬物療法で効果を感じられる人の割合が低めであるのは、それぞれのSRIの1日での最大使用量が、アメリカよりも低く抑えられていることが影響していることも考えられます。

再発する場合があります。
薬物療法は気分に働きかけるので、何らかのきっかけで、強迫行為をしたい衝動が出たときに、対処の方法を学ぶことができません。そのため、心理教育や認知行動療法でOCDの性質を理解していると、再発防止に役立ちます。

[7]抗精神病薬の併用

・強迫症の患者さんでSRIのみで効果が現れない場合や、不安や衝動が強い精神症状がある場合などに、抗精神病薬(向精神薬)を併用することがあります。

抗精神病薬・・・精神症状の安定、中枢神経の異常な興奮を鎮める強力(メジャー)な精神安定剤です。統合失調症などの精神疾患で、よく使われます。
商品名:リスパダール、ジプレキサ、エビリファイ、セロクエルなど

[8]抗不安薬・睡眠薬への注意

抗不安薬・・・不安、緊張が高まったときに一時的に和らげる薬。

ベンゾジアゼピン系:抗不安薬、睡眠薬、筋弛緩、てんかん薬としてよく用いられます。
脳内のベンゾジアゼピン受容体に結合することにより、GABA神経系の作用を間接的に強めます。
毎日、長期間、常用すると依存性が出て、服薬を中断すると離脱症状が現われてしまう場合があります。

主なベンゾジアゼピン系
レキソタン(神経症、うつ、心身症向け)、
ワイパックス(神経症、心身症向け)、
セパゾン(神経症、心身症、自律神経失調症)神経症の緊張やうつへの効果の他、強迫にも効果がある場合あるそうです。
セルシン、メイラックス、ソラナックス・・・

チエノジアゼピン系:作用時間は短いが、小児や高齢者にも使用できる
デパス、・・・

アザピロン系:セロトニン作動性(セロトニン受容体に作用)
一般名:タンドスピロン、商品名:セディール

[9]ジェネリック薬

ジェネリック薬は、後発医薬品ともいい、新しい薬が販売されてから期間が立ち、特許が切れた後、新薬と同じ有効成分を含む薬として販売されるものです。 新薬よりも、安価ですが、薬によっては、新薬と価格があまり変わらないものもあります。

医師に処方してもらうときに、ジェネリック医薬品を希望すると、処方箋に「後発医薬品への変更可」と書いていただけます。
処方箋を薬局に持っていって、在庫がない場合、取り寄せていただけないか相談してください。

リンク

医薬品医療機器情報提供・・・添付文書を検索できます。

ジェネリック医薬品: Genecal(ジェネカル)

日本ジェネリック研究会>かんじゃさんの薬箱

[10]メモ

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬 Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)
一般名:マレイン酸フルボキサミン fluvoxamine 
一般名:塩酸パロキセチン水和物 paroxetine
一般名:セルトラリン sertraline 
一般名:塩酸クロミプラミン clomipramine

[11]参考

[1]住谷さつき(2010)「エキスパートによる強迫性障害(OCD)治療ブック」星和書店第6章
[2]YJ Choi.(2009)Efficacy of treatments for patients with obsessive-compulsive disorder: a systematic review.Journal of the American Academy of Nurse Practitioners: Volume21, Issue4.p207-213

[3]選択的セロトニン再取り込み阻害剤フルボキサミンマレイン酸塩 添付文書(2014)
[4]選択的セロトニン再取り込み阻害剤 パキシル 添付文書(2014)
[5]選択的セロトニン再取り込み阻害剤ジェイゾロフト 添付文書(2015)
[6]選択的セロトニン再取り込み阻害剤レクサプロ 添付文書(2015)
[7]Goodman WK, McDougle CJ,(1992) Price LH.Pharmacotherapy of obsessive compulsive disorder.J Clin Psychiatry. Apr;53 Suppl:29-37.
[8]山上敏子(2003)「行動療法3」岩崎学術出版社p35
[9]IOCDF>“What You Need to Know About OCD” Booklet>”What You Need to Know About OCD” Booklet(日本語/Japanese)
[10]American Psychiatric Association. (2007)Practice Guideline for the Treatment of Patients With Obsessive-Compulsive Disorder.
[11]National Institute for Health and Clinical Excellence (2005)CG31 Obsessive-compulsive disorder