2-8. 汚染/洗浄タイプ

著者:有園正俊 公認心理師

[1]汚れ・汚染が気になる強迫観念

俗称ですが、不潔恐怖とも呼ばれます。汚染/洗浄タイプでも、さらに次の3つに分類できます。

1)漠然とした汚れが気になる
汚れではあるが、その内容は漠然としていて、具体的に何の汚れか特定できないタイプ。外の汚れ、学校の汚れというように、ある場所に行くと、そこの汚れがつくと思う人もいます。

2)ごく微量、もしくは、付いたか不確かでも許せない
汚い、有害な物質がごくわずかで、多くの人が気にしないような場合でも、嫌がって除去したくなります。
対象物質:ウイルス(新型コロナ、HIV、C型肝炎など)、菌、排泄物、体からの分泌物、土、砂、水銀、電磁波ほこり、薬品(漂白剤を含む)
・目では見えなくても、それらが付いているのではと気にします。
・目で見えるが、何の汚れかわからない小さな点のようなものでも、自分の苦手な汚染物質だったらどうしようと気になります。
対処の参考コラム:4-3.微小な物質はどこにでもある、4-4.確率と無視できるほど小さい

3)精神的な汚れ・汚染
嫌な人がさわった物、嫌なイメージが頭によぎったときに買ったりさわったものが、汚れているように思えてしまうタイプです。
・性的な被害に合った人が、その時に身につけていたものをけがらわしいと思う場合もあります。
・特定の人(例:お父さん、意地悪な人、野宿者、だらしない人、風俗に行く人)に対し強迫観念が生じることもあります。
理性的には、差別はいけないとわかっていても、症状が抑えられずに、葛藤する場合があります。

[2]強迫行為で見られるパターン

・洗い方、掃除の回数が増えるほど→より汚れが落ちると思い込む。
・水洗いより、石けん洗い、普通の石けんより薬用石けん、石けんよりもアルコールというように、より安心できる洗浄・除菌法を求めて、強迫行為がエスカレートしていくことがあります。
→参考 コラム:4-2.OCDのための手の洗い方
・ちょっとでも注意がそれたり、どこまでやったかわからなくなると、また始めから洗浄し直したくなります。

[3]きれいと汚いの区別

・OCDで汚れ・汚染が気になるタイプでは、患者さんが汚れていると思った場所に、さわるか、さわったかもししれないと思うと、そこに汚れがついたと考えてしまいます。
すると、鬼ごっこで、鬼に触られたら鬼になるように、見えない汚染がタッチしただけで広がっていくような思い(強迫観念)にとらわれます。

誰にでも、きれい・安全な場所・物と、汚い・危ない場所・物とがあります。しかし、汚れ・汚染タイプのOCDでは、その区別が多いか、徹底しています。
その説明を、下図では青色の濃さで表しました。

汚れ・危ないものと強迫行為の説明図

の汚れ・汚染タイプのOCDでは、上図の
右側の□:●●がついていると思う場所・物=汚い

左側の□:●●がついていないと思う場所=きれい=聖域
に入れたくないと思います。

そのため、右の汚い場所の物にふれたと思ったら、それが左のきれいなものにつかないよう強迫行為(洗浄、回避・・)をします。

[4]行動療法のポイント

きれいと汚いの区別を、いかに壊していくかがポイントです。
ただ、通常の行動療法では、上図で、汚れ・汚染の度合いの差が大きいほど、課題の難易度が高くなるので、アセスメントをして、患者さんと相談しつつ、難易度の低い課題から段階的に行います。

そして、汚いと思うものに手でさわって曝露するだけでは、手だけが汚れているので、手を洗いたいという衝動がいつまでも続いてしかねません。そのため、汚染されていると思う物に、まず手で触れた後に、それを髪、顔、腕、脚など、きれいだと思っている場所・物に広げて行くような曝露を行います。そして、強迫行為をしない反応妨害を、合わせて行います。

書籍の解説例:「あなたの住環境に広めましょう。」 「ほかの人々を汚染することも恐れているのなら、エクスポージャーの実践中、その人たちを汚染する方法も考えなければなりません。」[1]p261

強迫行為をしたい衝動は、実際に汚れがついているかというより、患者さんが「汚れがついたかもしれない」と思った記憶が、もたらしているからです。そのため、どこに触れたか覚えきれないくらいさわっていくと、強迫行為をしたい衝動へのあきらめがつきやすくなります。

参考文献

[1]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士(片山奈緒美訳)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE
[2]Pandmal de Silvia; Stanley Rachman(著)、 貝谷久宣(訳)「強迫性障害」
[3] Dan J.Stein著「不安とうつの脳と心のメカニズム」星和書店原著2003年、訳2007年
[4]Tamae E.Chansky,Ph.D., Freeing Your Child From Obsessive-Compulsive Disorder, THREE RIVERS PRESS, 2000