4-9.昔、曝露反応妨害で参考にした話

(2008.4.25初稿→2020.8.12修正)著者:有園正俊 公認心理師

強迫性障害の行動療法では、恐怖の対象に面と向かう曝露反応妨害を行う。
1990年頃、私自身が強迫性障害にかかり、自分自身で治療していたときは、森田療法恐怖突入を参考にしていたが、後で振り返れば、曝露反応妨害と似たようなことをしていた。当時の私が、度々思い出していたエピソードを2つ紹介する。とはいっても、かなり古い話ではある。

[1]大リーグボール1号での「打たれまいから、一歩進んで」

昭和40年代に大ヒットした野球マンガ「巨人の星」で、主人公の星飛雄馬(ほしひゅうま)は、大リーグボール1号という魔球をあみだしたときのエピソードだ。

巨人の投手になった星飛雄馬は、コントロールはするどいものの、比較的小柄で球が軽いため、打たれれば飛ぶという弱点にぶち当たった。
スランプに陥った星飛雄馬は、お寺で座禅を体験する。座禅では、少しでも体が動いてしまうと、僧侶によって警策(けいさく)という棒で肩をビシッと打たれる。
そのときの、僧侶の説明では、警策を打たれまい打たれまいと思っていると、かえって体は動いてしまう。そうではなく、「一歩進んで打っていただこう」という気持ちになると、姿勢も自然と落ち着き、打たれなくなるという内容であった。

その言葉をヒントにして、これまでバッターに打たれることを恐れていた姿勢を変え、あえてバットに当たるような球を投げ、凡打でアウトにするという大リーグボール1号を編み出した。

この話は、曝露反応妨害にも、似ている。
恐怖の対象から、逃げてばかりいては、よけい恐怖の悪循環が増すばかりだ。そうではなく、一歩進んで、あえて恐怖に向き合う。汚れるのが怖ければ、汚いと思うものを避けてないで、一歩進んで汚いものにあえて洗浄行為をしないで、手でさわる。そうすることで、かえって苦痛や衝動が減ってくる。
受け身で、ただ我慢するだけなら、なかなか慣れていかないものだ。

[2]競輪でのペダルを踏み続けないといけない例え

テレビ東京の「所さんのもしも突撃隊!!」という番組で、飯島久代さんという女性が、いろいろなことに挑戦するコーナーがあった。
その中で、競輪の選手の養成所で、競輪の自転車に乗る回があった(1991年)。

競輪のコースをバンクというのだが、そのカーブはかなり急こう配の斜面になっている。
その斜面を走っている途中で、こぐことを止めたら、事故になって、とても危険だ。
だから、怖くても、ペダルを踏むことを止めてはいけないという内容だった。
番組では、飯島さんは、運動神経がとてもよく、根性もあって、克服したように、覚えている。

その番組を見て、森田療法の恐怖突入をしても、途中で止まってしまってはダメなのと、イメージがだぶった。
それ以来、恐怖突入の最中に、止まりたくなっても「(自転車を)こげ、こげ、こげ」と言い聞かせて、止まらずに進むように心がけていた。

後に知った曝露療法というのは、嫌なものにちょっと触れて、後は我慢というものではない。このように、負荷を自分から畳みかけていくのが基本だが、このエピソードは、それにかなっていたわけである。
当時は、指導してくれる人などいないし、インターネットが普及する前で英語の文献も読むことができなかった。だから、なるべく科学的に試行錯誤をしつつ、徐々に方法を改良していったわけだ。治療をする立場になってからは、もっといろいろなことを知ったので、治療の機関も、はるかに短い人が増えた。