2-1.家族の巻き込みと、その対処

あらまし

不安・衝動の強い精神疾患(強迫症/強迫性障害(OCD)、統合失調症、摂食障害、衝動制御障害など)、発達障害(自閉症スペクトラムなど)をもつ患者が、家族や周囲の人を症状に巻き込むことがあります。。
これは、長期的には患者さんの重症化につながります。また、家族の負担やストレスも大きくなります。しかし、家族の巻き込みが習慣になると、止めるのが難しくなってしまうことがあります。
このページでは、その対処の一般論を紹介します。
ただし、具体的な介入方法は、個々のケースによって異なるので、OCDにくわしい専門家を察して、相談してください。

目次

1.家族の巻き込みとは?
2.巻き込みの問題点
3.巻き込みを止めるは難しい
4.病気の性質を改めて理解する
5. 対処の方向
6.参考

1.家族への巻き込みとは?

巻き込みの例:

・患者の強迫行為を手伝ってあげる。(例:確認、拭く、掃除、洗濯・・・)
・患者が避けたいことを、代わりにやってあげる。(例:ゴミ出し、車の運転、自宅外での用事、嫌なものに触れる作業・・・)
・患者の要求のために、家族がさわっていい場所、行動できる範囲、着替え、入浴の方法・時間などが制限されている。
・「大丈夫?」って聞かれたら、「大丈夫だよ」と答えてあげる。

家族への巻き込みの定義:

英語では「家族がしてあげること=family accommodation」と言い、その定義は「精神・心理的な疾患を抱えた患者が、疾患に関連した苦痛を避ける、減らすことを手伝うために、家族の者(両親、パートナー、兄弟姉妹、子)の本来の行動を変化させてしまうこと」です。[1]

2.巻き込みの問題点

1) 周囲の人の巻き込みは、結果として、本人一人の能力以上に強迫行為・回避ができてしまうので、精神症状の悪循環が増し、重症度が増すという報告が多数あります。[1-4]

精神症状と巻き込みの悪循環

2) 精神症状が重症化するほど、患者さんの生活は症状に支配されていきます。家族の巻き込みも、その延長で、症状が家族の生活を支配してきます。つまり、家族の生活も、強迫的なルールによって制約が増え、ストレス・負担が大きくなります。[1,2]

3) 家族への巻き込みが習慣になってしまうと、家族の側から止めるのは難しくなりがちです。患者さんによっては、家族が巻き込まれていた行為を断ろうとしたら、非常に抵抗したり、激しく怒るかもしれません。過去には、日本でも巻き込みが、殺人事件にまで発展してしまったケースが、日本でもいくつか報道されています。[2]

4) 家族の巻き込みが大きいと、本人の精神症状の治療にも、支障をきたしやすいという報告が多数あります。[1,2,4]

5) 一般に、患者が、子どもの場合よりも成人の方が、強迫行為への直接的な加担と、家族が日常生活のパターンを変えるよう強いられることが少ない傾向があります。[2]

3.巻き込みを止めるは難しい

本では、次のように書いてあるものがあります。

例1「安心したいために、「充分に洗った」「汚染された物には触っていない」と、誰かに言ってもらっていませんか?そんなことをしてもらっても、症状を悪化させるだけです。ぜひやめてください。」・・中略・・「家族は、あなたの儀式行動を手伝うのをやめなければなりません」・・中略・・「質問するたびに、家族には、「そんな質問には答えないことにしているんだ」と応じてもらってください。」[4]「強迫性障害を自宅で治そう!」p247-248

例2 「OCDに苦しんでいる人と一緒に生活をするときに従うべきただ一つのもっとも重要なルールは、「本人に代わって儀式を行うことをやらないことである。–別の言葉でいえば、「手伝わないことが援助すること」である。[5]「強迫性障害からの脱出」p330

しかし、そう簡単に実行できるものではないという家族も多いです。

4.病気の性質を改めて理解する

4-1)巻き込みでの会話の特徴

家族の巻き込みで、患者さんが話したい内容は、主に次の2つのパターンです。(会話分析)

1)要望


**にさわらないほしい。
**を買ってきてほしい。
**を代わりにやってほしい。

家族に、強迫行為を手伝ってもらったり、嫌なものを避けるために言います。
要求に応じてもらうために、「**をするから、今度だけやって」とか、取引の提案をすることもあります。

2)安心を得るための質問

**は、大丈夫かな?
**をちゃんとやってくれた?

患者さんの頭の中では、OCDのために疑念がよぎり、確信がもちにくくなっているために、質問します。また、家族に、そばに付いていてもらう、代わりに確かめてもらうことも、同じような影響を与えます。

4-2)繰り返される強化のしくみ

これら要望・質問に、家族の側が答えてくれると、患者さんにとっては、一時的に苦痛が減ったり、安心できたりというメリットがあります。

すぐにメリットが得られる行動は、強化といって繰り返されてしまいがちです。
そして、一旦、習慣となると、それを患者さんが止める、家族が応じることを、断ることが難しくなります。
患者さんも必死なので、要望に応じるかどうか、どちらが勝つか負けるかの議論になってしまいがちです。
患者さんの抵抗も強くなり、大声を出すとか、いろいろな理由を挙げては、要望を吞むように説き伏せてくることもあります。それがあまりに強いからと、家族が根負けして、要望に応じてしまうと、また、次の要望をしてきたときに、同じようなしつこさで、要望を通そうと頑張ります。これも強化です。

巻き込みに応じるよう抵抗する行動の強化

4-3)原因は脳の中の病気(外在化)

これらの会話は、患者さんの頭の中の病気(OCDなど)が、言わせているのです。
家族が、要望や質問に応じないときに、応じるまで、しつこく抵抗を続けるのも病気があるからです。(自閉症スペクトラムのこだわりのような先天的な性癖と区別が難しい場合もありますが、その場合は、障害がその性癖をもたらしていると考えます。)

病気は、不合理なルールと行為を増やして、患者と家族の生活の支配を広げていきます。 患者さんは、脳が病気に支配されて、命令に逆らえない手先のようなものです。
このように、病気と、患者さんの人格とを切り離して考えることを外在化といいます。
このように考えることで、患者VS家族という対立した関係から、対処すべきものの正体は病気だと、関係を変えることが大事です。

参照:支配の解説:強迫性障害の案内板>1-3.OCDの特徴>[2]OCDの支配と疲労
   外在化の解説: 強迫性障害の案内板> 2-1.OCDへのとらえ方と治療動機>[1]脳が悪いプログラムにはまるのが病気の正体(外在化)

外部サイト―――

宮前良平(2015)ぜんぶ妖怪のせい? 正しく使おう「妖怪ウォッチ教育法」2ページ<ITmedia ビジネスオンライン 外在化の例として、遺糞症(いふんしょう)の少年へのスニーキー・プーの話が紹介されています。

5. 対処の方向

次は、対処への基本的な考え方です。

5-1)家族自身の心身の安全・健康を最優先にします

巻き込みが激しくなると、家族のストレスも増して、家族が病気になってしまうこともあります。また、暴力が振るわれるなど、警察への相談が必要となるケースもあります。

OCDなどの精神症状が重いと、優先順位が、病気の都合第一(病気ファースト)になってしまうので、患者さんや家族の健康や安全が二の次になってしまうケースもあるためです。
たとえば、家族が要望に応じるまで、話続け、寝かせてくれないというケースもしばしば聞きます。

5-2) できれば患者さんも、巻き込みの悪循環のしくみを理解する(心理教育)

患者さんに、巻き込みは、かえってOCDの重症度が増し、悪化させるしくみ(上図)について説明し、同意を得られるといいのです。
1-1.強迫症 強迫性障害(OCD)とは? どんな症状か?>[4]OCDの特性 にも書いてあります。

強迫行為や、巻き込みの最中では、話し合いにならないというケースも多いです。症状が出ていない時間帯の方が、患者さんも聞きやすいと思います。

ただ、病気を悪化させるような行為を家族がするのはいけないというのは、一般論としては理解できても、巻き込みの場合、一見、苦しんでいる患者への手助けのように思えてしまうことが、誤解されやすい点です。[3]

5-3) 記録を取る

家族が、巻き込まれた年月日、内容、会話を書いておきます。短くてもいいので、なるべく客観的にどんなことがあったかだけを書きます。
記録を後で振り返ると、5-2)の悪循環のしくみに当てはまっているかなどを検証できます。また、患者さんと家族がもめると、主観的な言い合いになってしまいがちですが、客観的な記録があると、見方を変えることができます。

5-4) 他の家族とも連携して、対応できるといい

要望・質問される家族が、患者さんの子どもであるとか、暴力的な言動によって強いられている場合は、特に、他の信頼できる人と連携することが大事です。家族の中で、頼みやすい人ばかりに負担がかかってしまうことがあるためです。

家族の中だけで無理なら、信頼できそうな親戚、医師、保健師、スクールカウンセラーなどの心理師でも可能な場合があるかもしれません。

たとえば、母親が、患者さんに求められても、お父さん、お医者さんと相談してからと伝え、すぐに応じないようにします。

5-5)患者さんとの心的な距離を開ける

患者さんからの話で問題になるのは、上記のように要望と質問です。それに応じるよう、求めてくるわけです。通常は、家族の中でも、それを求めやすい人に話しかけてきます。また、強要してくることもあり、家族以外の人には、求められない内容であることも多いのです。

巻き込みでの会話は、上記4-1)のように要望や質問が主です。そのため、一般に、心的な距離が近ければ、物事を頼まれたときに、断りづらくなります。
ですので、普段から、できれば他人行儀に接し、お互いの自律を尊重し合う関係に移行していくことが、望ましいです。

強迫行為の最中、家族にジロジロ見られると、よけい緊張して症状が強くなる人がいます。

5-6) 生活で別にできるところは別にする

家族と共用の場所、時間が多いと、それだけOCDに関連したトラブルも増えます。

特に、汚れや汚染が気になるタイプのOCD患者さんは、この部分は、汚いものに触れないで、きれいさを保っておきたい聖域を考えていることが多いです。

その聖域に家族が干渉すると、本人にとっては、大事なものが汚れ、洗浄の強迫行為が大変になってしまい、苦痛となります。

ですので、この部屋のこの部分だけに物をおくとか、家族がさわる場所に気になる物は置かないとかできると、お互いのストレスが減ることがあります。

5-7) 会話の中で外在化を意識する

巻き込みの会話は、患者さんの要望・質問に応じるか、応じないかが焦点になりがちです。
そこで、家族は、「断ったら、よけい関係が悪化しないか」、「本人を孤立させないか」と心配して、ためらってしまう人もいます。

しかし、要望や質問に応じる、応じないの議論は、上記のようなどちらが勝つか負けるかの会話になってしまいます。また、家族の側が、何か取り決めを提案しても、同様な話し合いになりがちです。

そこで、必要なのが、上記の外在化です。
これらの問題を引き起こしているのは、病気(OCDなど)なのです。
ドラキュラに嚙まれた人がドラキュラになってしまったように、巻き込みが激しい患者さんは、病気に洗脳されてしまったような状態です。
患者さんを孤立させるのではなく、病気と距離を開けるのです。

そのため、本人が、要望・質問してきても、
「それが気になるんだね」と、否定も、質問への直接の回答もしない。
もしくは、
「なんで、それが気になるのかな?」「なんで、そんなに大事なのかな?」「病気になる前は、そんなこと気にしなかったよね?」などと聞き、できるだけ病気(もしくはOCD)が気にさせていると、本人が気づけるような会話ができるといいです。
家族が、相手を非難するように話すと、相手の領域に踏み込んだ言い方になってしまい、どちらが勝つか負けるかの議論になりがちです。
そして、「私も忙しいから」とか、自分を主語にした言い方で、議論が長引かないようにできるといいです。
(実際に、どのような会話ができるかは、このケースによって異なります。)

5-8) 家族が先回りしてやってあげない

本人がやっていると、時間がかかるとは、後でもめるのが嫌だなどの理由で、本人の要望がないのに、周囲の人が先に手伝ってあげてしまうことがあります。家族が、先回りして、融通をつけてあげることは、すべて巻き込みになります。しかし、これをしてしまうと、病気の思うつぼです。

5-9) 本人を変えようとするよりも家族の側から変わる

病気が、問題を引き起こしているのに、家族が本人に代わるよう説得しても、患者さん自身が診療を受けないと、病気の改善は困難です。家族が、患者さんを変えよう働きかければ、警戒します。そうではなく、家族自身の関わり方を見直していきます。
また、病気の改善は、本人の自立度に影響します。精神的・経済的な自立度の高い人、一人暮らし、ある程度の職業経験がある人の方が、改善が早いことが多いです。ただし、患者さんが、発達障害を併存している場合、それに応じた自立度を考えます。
たとえば、もし家族が、本人に金銭的な援助をしている場合、それを見直すことも大事です。強迫の症状のために、洗剤、トイレットペーパー、水道代、光熱費が多大で、家族が出している場合、本人のためと思って出した費用が、病気を育ててしまうことになっています。
家族もできないことは、できないと言いましょう。

5-10) 家族も自分のための時間を確保できると理想的

仕事、趣味でもいいですが、パートで働いてみるとか、好きなだけ寝るとか、本人を置いて親だけで旅行に行くという案もいいかもしれません(すぐには実現できないかもしれませんが)。

5-11) OCDにくわしい専門家を探そう

精神関係の相談機関は、いろいろありますが、OCDや巻き込みにくわしい専門家でないと、間違ったアドバイスをしてしまうことがあります。
たとえば、「患者さんの巻き込みの要望を聞いて、安心させてあげてください」「患者さんを孤立させないよう、話を聞いてあげてください」などとアドバイスされたために、悪化してしまったケースも実際にあります。
家族ベースの認知行動療法といって、患者への認知行動療法に、家族が参加したプログラムを加えたものが、海外では開発されていますが、まだ日本では普及していません。

6.参考

有園正俊[著]上島国利[監修](2017)よくわかる強迫症 主婦の友社 第6章「家族もいっしょに治していく姿勢で」p99-110でも、OCDでの家族の対応について、自立の問題を含め、簡単に図解で解説してます。

文献

[1] E R Lebowitz, K E Panza, M H Bloch, (2016) Family accommodation in obsessive-compulsive and anxiety disorders: a five-year update. Expert Rev Neurother.;16(1):45-53.

[2] U Albert, A Baffa, and G Maina, (2017)Family accommodation in adult obsessive–compulsive disorder: clinical perspectives. Psychol Res Behav Manag. 10: 293–304.

[3] C Strauss, L Hale, B Stobie (2015)A meta-analytic review of the relationship between family accommodation and OCD symptom severity. Journal of Anxiety Disorders 33.

[4] L Merlo, H D Lehmkuhl, G R Geffken, E A Storch, (2009) Decreased family accommodation associated with improved therapy outcome in pediatric obsessive-compulsive disorder. J Consult Clin Psychol.Apr,77(2);335-60

[5]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士(片山奈緒美訳)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE

[6]リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」 晶文社

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