2-1.強迫症へのとらえ方・治療動機

著者:有園正俊 公認心理師

このページは、強迫症/強迫性障害(OCD)という病気に向き合っていくためのステップです。

そのために、まず専門的な書籍に書かれた文を紹介します。
・エドナ・フォア先生の翻訳書[1]p113「もし、深刻な症状に苦しんでいたり、もっと恐れる出来事が現実化してしまうと信じ込んでいたり、儀式行動や強迫観念に1日2時間以上もとらわれているのなら、OCDにくわしい専門家の指導を仰ぐことをおすすめします。」

・英語の本([2]p1)「OCDの人たちの80%割は、支援なしでは改善しないことがわかっている。つまり、まれだが、OCD症状が独力で消失していく」

つまり、独力での症状改善は、困難なケースが多いです。
また、精神科一般のクリニックでも、治療がなかなか進まない場合があります。
そのような場合、強迫症によりくわしい専門家を探す方法が考えられます。強迫症への適切な治療を受けることで、3カ月から2,3年でかなり改善する人が、たくさんいます。

目次
[1]脳が悪いプログラムにはまるのが病気の正体(外在化)
[2]侵入思考をいじらない
[3]動機と優先順位
[4]家族に頼って治療を敬遠していないか?

[1]脳が悪いプログラムにはまるのが病気の正体(外在化)

強迫症にとらわれているときは、実際は警戒しなくていいことにまで、過剰に警戒するような癖がついてしまっているわけです。脳の画像の研究によると、一部が働き過ぎていることがわかっています。(参照:OCDと脳
それを、たとえると、強迫症では、
例1 PCが、悪いウイルスのプログラムに感染したように、脳がこのような癖をさせるプログラムにはまっているようなもの。
例2  脳の警報機が火事でもないのに鳴っているようなもの!

しかし、強迫症の患者さんにとっては、どこからが過剰な警報なのか、その境界がわかりにくい!
強迫は、自分の感情と体の反応(緊張など)が伴うため、本当にそうかもしれないと感じてしいます。

強迫症は、人をだますのがうまい、詐欺師のようなもの。
だから、念のために強迫行為をしてしまう。

そこで、患者さんの人格と、病気とを切り離して考えるようにします。
これが、外在化(がいざいか externalizing)です。

例3  強迫症は、恐怖で人を支配している独裁国家に似ています。悪いことを引き起こしているのは、国民ではなく、独裁政権です。
それと同じように、強迫症でも、問題を引き起こしているのは、汚れや汚染物質でもなければ、患者さんの言ったとおりにしてくれない家族でもありません。そのような問題をもたらしているのは、強迫症なのです。

例4  強迫症の人の中には、外で苦手なもの・人に出合うので、それを避けて、自宅に引きこもったら、自宅でも気になることが発生してしまうことがあります。
つまり、原因は、外の苦手なもの・人ではなくて、患者さんの脳の中にあるためです。
だから、強迫症を治さないと、次に気になるものを、強迫症が勝手に作ってしまいます。

つまり、外在化とは、問題をもたらしているのは、脳の中のO強迫症だと気づくことです。

そして、強迫症は例1のように、パソコンが悪いプログラムにはまった状態なので、治療によってそのプログラムを改善できる可能性があります。

ただ、「1-5.強迫症と性格、他の病気との鑑別」で書いたように、強迫症の人の中には、元々の性格が強迫的な人がいて、病気か自分の性格なのかの区別が難しいことがあります。その場合、外在化や病識を持ちにくいことがあります。

「自分の症状を克服しようと決心したとき、自分の心配が実体がないものだと納得したとき、そして、苦痛を取り除くために儀式行動(強迫行為)以外の新しい方法を見いだそうとしたとき、強迫観念や強迫行為の力が弱まるからです。」[1]p124

[2]侵入思考をいじらない

強迫症では、自分の意思に反して、気になるような考えが、自動的に思い浮かんでしまいます。
これを侵入思考といいます。(参照:1-6.強迫観念のしくみ
しかし、温泉で、どんどん湧いて出るお湯にふたをすることが無理なように、侵入思考をなくそうとすると、無理があります。むしろ、かえって思い浮かぶ頻度が増し、気になってしまいます。[3]

温泉で湧くお湯のように侵入思考は止められない

侵入思考を真に受けて、「どうしよう」「何とかしなきゃ」という衝動のままに行動してしまうと、強迫症の思うつぼです。

強迫観念の「もし・・・したらどうしよう」などの嫌な感情をもたらす考えそのままにして、しばらく共存していきます。
そして、下図のように、自分の意識のうちの、自分でもわかっている部分を大事にします。

確認強迫で記憶が薄れるしくみ
疑念を考え出すと、自分でもわかっている部分が損なわれる

強迫観念を真に受けず、受け流せられば理想的ですが、症状が重いと、難しいです。
そういう人は、治療(薬物療法、行動療法・認知行動療法)が必要になります。

ただ、それでも、どうしようと焦って、すぐに強迫行為をしたりせず、一呼吸置けるだけでも、ましです。
「心配している自分に気づいたら、ちょっと立ち止まって、こんな思いにとらわれていても大丈夫なのだと、自分に言い聞かせてください。」[1]p137

[3]動機と優先順位

自分の問題から、逃げずに、向き合うことが大事。
勇気もいります。

改善のためには、必要なものは何でしょう?
改善が進まない人は、必要なものをよりも、嫌なことを避ける消去法で、選択していることがあります。
改善できた人は、次の項目(全部とは限らない)の優先順位が高いです。

1)動機・・・自分や大事な人がどうなりたいか?を、紙に書いてみます。
その一方で、治療に踏み出すことをためらう気持ちもあれば、それも書いて、比べてみます。

2)時間・・・強迫症の治療に取り組む時間を、他のことよりできるだけ優先してください。

3)お金・・・専門家に頼むには、ある程度費用がかかります。認知行動療法は、健康保険が効かない場合がほとんどです。少なくとも10回、3ヶ月以上かかるので、薬物療法を含めて、通院に合計10ー30万円は少なくともかかります。

次に、費用対効果を考えます。
強迫症が改善すれば、働ける能力がある人の場合、仕事に就ければ、元を返すことができます。問題なのは、現状では適切な治療ができる治療者を探すのが難しいため、何軒も専門家を訪れることでも、費用が掛かってしまうケースがあることです。

自分で働いていない場合、家族がいろいろな費用を負担してくれているはずです。
生活費、住居・水道光熱費、インターネットなどの通信費。
学校に通っている、休学している人なら、その学費です。そのような出費が、OCDによって、続くことを考えてみてください。
特に、お金を負担する家族の側に立って考えることが大事です。また、これまでに家族が援助してくれていた金額は、いつ家族に返済するつもりでしょうか?家族には、お金だけでなく、ストレスもかかる場合があります。
そのような強迫症のためにかかる費用と、治療にかかる費用とを比べてみてください。

4)心理・・・プライド、はずかしさ、世間体などが優先してしまい、なかなか治療に踏み出せない人もいます。このような思いがあっても、強迫症の改善という行動に踏み出すことも、曝露の一歩です。

[4]家族に頼って治療を敬遠していないか?

・精神科に初めて受診する、もしくは、過去に何回か受診したが、治療がうまく行かなった経験があると、不安や不信感を抱くのは、無理もありません
そのため、強迫症が苦痛でも、家族が援助してくれているので、受診しないままでも、どうにか過ごせてしまうことがあります。その期間が、何年も続いてしまうケースもよくあります。

また、強迫症への家族を巻き込みが多いと、患者さん自身の重症度も増してしまうことと、治療に支障をきたす傾向があります。
そして、家族の負担も長期化します。(参照:精神科の情報>2-1.家族の巻き込みと、その対処)

・次の2点はどうでしょう?
1)家族にお世話になっている部分。
例:
食事の支度、後片付けを、家族にしてもらっていませんか?
電気、ガス代、部屋代、税金などを家族が支出していませんか?
強迫行為で使う、洗剤やティッシュを、自分の収入で、買い物に行っていますか?
タオルをものすごく使う人は、自分で洗濯していますか?

2)強迫観念による要望に、家族が巻き込まれていないか?
例:
替わりに掃除してもらっている。
自分の症状に影響するエリアには、近づけさせないようにしている。
外から帰ってきたら、家族に着替えや体を洗うことを強いている。
家族に「大丈夫?」と聞いて、確認している。

患者さんの症状が重ければ、すぐに働けないのは、もっともなことです。お世話になることが悪いとは限りません。
しかし、家族だって、自分の人生があります。
そこに自分から気づいてください。

参考文献

[1]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士[著]、片山奈緒美[訳](2002)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE
[2]Christine Purdon, David A. Clark,「Overcoming Obsessive Thoughts: How to Gain Control of Your OCD」2005
[3]スタンレイ・ラックマン著、監訳者作田勉「強迫観念の治療」世論時報社(2007)p56-57