3-8.抜毛症と皮膚むしり症

著者:有園正俊 公認心理師、精神保健福祉士

毛を抜き過ぎて、ハゲができてしまうほどでも、止めるのが難しくなってしまう病気が抜毛症です。
また、皮膚をむしり過ぎて、その部位が傷ついても、止めるのが難しくなってしまう病気が、皮膚つまみ症です。そのため、他人と関わること、学校や職場へ行くこと、に支障をきたすと、これらの精神科の病気にあてはまる場合があります。
抜毛症、皮膚つまみ症は、診断基準DSM-5では、強迫症/強迫性障害(OCD)と同じグループに分類されています。
直接の診療は、精神科医から受けてください。(注:このページには、OCDサポートの心理相談室では行っていない診断、薬物療法の情報も含まれます。)

目次
1.抜毛症(trichotillomania)とは
2.皮膚むしり症(skin picking)とは
3.共通の特性
4.強迫症(OCD)との違い
5.診療についての情報
6.参考文献

1.抜毛症(trichotillomania)とは

・健康な毛を抜くことを繰り返して、癖になり、止めることが難しくなってしまいます。毛根まで抜くので、再び生えなくなってしまうことがあります。
・美容のために白髪、ムダ毛、わき毛を、自分の意思で抜くのは、病気の対象ではありません。また、髪の毛をいじるだけなら、対象ではありません。
抜く毛は、人によって異なり、頭髪、顔(眉毛、まつ毛、鼻毛、ヒゲ)、体のあらゆる毛を抜く場合があります。
・抜く行為を、他人に見られたくはないので、一人の時間に自宅で行うことが多く。抜いた部分を他の長い髪、カツラ、帽子、服装などで隠すことがあります。

・一般人口の青年、成人で、抜毛症の12カ月間での有病率は1~2%と推定されます。女性の割合が多く、男性の10倍だそうです。参考[1]

抜毛症では、やめたくても、やめるのが困難になります。

2.皮膚むしり症(skin picking)とは

・皮膚の一部を、はがす、ひっかく行為をやり過ぎて、皮膚が傷ついても、止めるのが難しくなってしまう病気です。
・よく見られるのは、指のツメの周り、唇とその周囲のささくれ、顔や身体のにきびや、凸凹などです。ツメ噛みをすることで、ツメが極端に短くなっていることがあります。
・かさぶた、ニキビ、皮膚のデコボコ、固くなった部分などをむしることがあります。

・海外の報告では、皮膚むしり症を、生涯で経験する人は1.4%以上で、3/4以上が女性だそうです。参考[1]

3.共通の特性

3-1)コントロールが困難
自分でも止めよう、減らそうと試みても、症状が重くなるほど止めるのが難しくなります。

3-2)発症とその後の経過
ストレスの強い出来事、うまく行かない出来事、劣等感のようなものがあり、それがなかなか解消できないことが、きっかけとなることがあります。思春期以降に発症することが多いです。
そして、毛を抜いたり、皮膚をむしれたときに、いくらかの緊張と満足感があるので、繰り返していくうちに、そのような嫌な現実から、少し注意がそれて、まぎらわせていることがあります。
しかし、この行為が習慣になってしまうと、嫌な出来事が治まった後も、これらの行為が続き、止めること難しくなってしまうか、症状が一旦治まったり、出現したりを繰り返すことがあります。

3-3)行為を隠したい
通常は、人前(家族以外)では、行為をなるべくしたくなく、そのような行為を見られることを恥ずかしいと思います。
そのため、行為のコントロールが難しく、外見での異常が目立つようになると、その部位を隠し、外出、通学・通勤などを避けることがあります。
しかし、逆に考えると、学校や職場や友人と一緒で他人の目があるときには、行為をしないでいられるの場合は、それが症状の悪化の歯止めになっていると考えられます。

3-4)道具を使う人もいる
毛抜き、ピンセットなど。

3-5)併存疾患と分類
・発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如多動症)、強迫症など、いろいろな精神疾患と併発することがあります。
・抜毛症、皮膚つまみ症のような行為は、身体に焦点化された繰り返し行為(BFRBs)と分類されることがあります。体の外見やキズを引き起こすような行為が、衝動的に繰り返され、コントロールが難しいものです。 BFRBs には、ツメ噛み(ただの癖ではなく、キズとなるレベル)、 強迫的髪切りが含まれます。
(BFRBsはBody-focused repetitive behaviorの略。貧乏ゆすり、関節をポキポキ鳴らす、つばを吐く、ガムを噛むなどの癖で、自分の体に害がなかったり、他人に迷惑がかからないようでしたら、病気やBFRBsではありません。)

4.強迫性障害(OCD)との違い

4-1)感覚と感情

これらの病気では、行為の直前や、行為に抵抗しているときに緊張感があり、行為の最中、もしくはその直後に、緊張が解放されるような(いくらかの)快感があります。その点がOCDと異なります。また、その快感は、アルコールやたばこの依存症ほどではありませんが、しかし、その衝動が落ち着くと後悔の念にさいなまれることは、OCDの強迫行為と似ています。

4-2)強迫観念がない

抜毛症、皮膚つまみ症では、強迫観念のような考えに駆られて、行為を行いたくなるわけではありません。行為をしたい衝動が生じて、それを繰り返したくなる習慣にはまってしまう感じです。あまり意識せずに、反射的につい始めてしまう場合もあります。

そのため、次のような例は、抜毛症や皮膚つまみ症ではなく、強迫症(OCD)に該当するかもしれません。
例1:髪型が左右対称か、形の微妙なバランスが気になって、髪を切ることが止められない。
例2:皮膚のできものが、悪化して、重大な病気にならないか不安で、何度もいじったり、鏡で見て確認してしまう。

4-3)ルールよりも感覚

強迫行為では10回洗えば終了、どの順番で確認するようにルールを決め人がいますが、抜毛症や皮膚つまみ症では、そのような言葉によるルールはあまり見られません。
毛の抜き方や、皮膚のいじり方で、こうすれば、すっきりする、上手くいった感じがするという程度に方法にこだわることはあります。

5.診療についての情報

5-1)症状の観察と診断

皮膚の損傷状態によっては、皮膚科への受診した方がいい場合もありますが、精神科の病気です。ただ、専門的な診療をできる精神科医・心理士は限られるので、どこの精神科でもいいというわけにはいかないと思います。

抜毛や皮膚つまみが起こっている部位を、患者さんが医師や心理士に見せてくれれば、状態を判断しやすいのですが、患者さんによっては、見せるのに、抵抗がある人もいると思います。そういう考え方も含めて、診療の対象になります。

また、患者さんの行為や損傷した部位に目が行きがちです。
しかし、患者さんによっては、その背景に、
何らかのストレスを抱えていて、解決できないでいる、
自分の性格や精神的な特性で苦手な部分をもっているか、自覚していない、
他の精神疾患を併せ持っている

などがあります。
そのため、患者さんの状況の全体を診て、治療を勧めていくことが大事です。

5-2)精神療法

ハビット・リバーサル訓練(HRT、習慣逆転訓練)
(認知)行動療法の技法で、問題となる癖や行為に代わる、別の行動に置き換えて、それに慣れていくトレーニングです。次の方法を含みます。

気づきの訓練(Awareness Training)
まず、自分が抜毛や皮膚つまみをしていることに気づくことが大事です。意識しないうちに、自動的に、いつのまにかしているという場合もあるためです。
また、どのような場所、時間帯で、行為をしてしまいやすいかという傾向がわかれば、対処の参考になります。(例:一人で、自宅でくつろいでいるとき。)

刺激制御
動作が始まる可能性を減らすために、そのような衝動が起きやすい環境を変えたり、「スピードバンプ(勢いを抑えるしくみ)」として手袋や指サックをはめるなど、行為をすぐにできない方法を探して、試してみます。

拮抗反応訓練(Competing Response Training)
抜毛や皮膚つまみをしたくなるときに、それに代わる行動をするように練習します。
どこでも、すぐにできて、他人には気づかれにくい行為だと行いやすいです。
例:手や服を握る、親指と人差し指で輪をつくる、指で体や机などをこする、顔に手をあてる・・など。
このとき、抜毛や皮膚つまみをしたい衝動が出てくると思いますが、その衝動を抱えたまま、どれくらい過ごせるか、試していきます。

これらの技法を、患者さんの生活に合わせて、取り組むやすいように導入していきます。

リラクゼーショントレーニング、弁証法的行動療法などを、これらに加えることもあります。[2]

抜毛や皮膚つまみに代わる行動を毎日続けます。一般に、3週間から1ヵ月、代わりの行動が続き、それが習慣がとなり、症状も治まっていきます。ただ、症状がいくらか残っていると、再発してしまう可能性が考えられるため、できるだけ残らなくなるまで行います。

5-3)薬物療法

(米国食品医薬品局によると)効果が確認されたものはありません。

抜毛症、皮膚つまみ症では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を用いた検証研究では、一般に、髪、皮膚をいじる症状自体を減らすのに効果的ではないようです。
ただし、行動療法にSSRIやクロミプラミンというSRIという薬を併用することがあります。[2]

研究段階では、セロトニン以外の神経伝達物質に影響を与えると思われる薬品で、効果が期待されているものがあります。抗精神病薬のオランザピン、グルタミン酸モジュレーターN-アセチルシステイン:NAC)などが研究されています。[2]

6.参考文献

[1]アメリカ精神医学会(APA)[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修](2014)「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2]Martin Franklin, Kathryn Zagrabbe,Kristin Benavides.Trichotillomania and its treatment: a review and recommendations.Expert Rev Neurother. 2011 Aug; 11(8): 1165–1174.
[3]James Claiborn, Cherry Pedrick.The Habit Change Workbook: How to Break Bad Habits and Form Good Ones.New Harbinger Pubns Inc (2001)
[4]NHS>Mental health>Mental health conditions>Trichotillomania (hair pulling disorder)Skin picking disorder