2-6.行動療法2 曝露反応妨害のポイント

著者:有園正俊 公認心理師

強迫症/強迫性障害(OCD)の治療で主軸となる曝露反応妨害でのポイントを書きます。

[1]基本姿勢

1)動機—初心忘れるべからず。

病気の苦痛が今のまま、続くのがいいですか? vs それとも、勇気を出して、挑戦した方がいいですか?

治りたい気持ちと、治療をためらう気持ち、両方あるのは自然なことです。
そして、精神症状が重いと、「**をしたい」というような気持ちよりも、「嫌なことを避けたい」という気持ちの方が強くなってしまうこともあるのです。そのため、受診を避けてしまう人もいます。

そのようなときに、
以前の病気を治したいと思ったときの気持ち、
改善できたら何をしたいか
・・・などを思い出してみてください。

2)強迫症状による問題点を直視する

洗浄、着替え、確認など、強迫症に関係なく誰もが行います。
しかし、強迫行為は、それを行う範囲、やり方がどこか過剰です。強迫症になる前は、していなかった部分があるはずです。

とはいえ、強迫行為の最中は、自分だけの見方(主観的)にとらわれているため、どこが過剰なのか、わからない人も多いはずです。
その見方は、強迫症状が重い人ほど、強迫症に支配された見方になってしまいます。そのため、家族を巻き込んできる人は、その支配された見方で、家族にも要求してしまうわけです。

そのため、強迫行為をしていないときに、自分の問題点をできるだけ客観的に見ることが必要です。
つまり、強迫症状によって、どこが困っていて、他の人からどう見えるのかを、避けずに直視することです。

そして、治療には、客観的な視点が必要なので、できればOCDにくわしい専門家の診療を受けつつ行えるといいわけです。
主観的、独りよがり(=根拠が不確かな独自の)考え、行動を自分に許してしまっている限りは、OCDの思うつぼです。

[2]曝露反応妨害のポイント

1)曝露反応妨害は、単なる我慢ではない

ただ我慢するだけでは、症状が重い人ほど、慣れていくのは難しいです。
むしろ強迫症の人の中には、トイレに長時間行かない、冬でも薄着で過ごす、疲れても座らないでいるなど、とても我慢強い人も多いのです。そういう人でも、強迫行為をやらないで、我慢しづけるのは難しく、ましてやそれに慣れていくのは、なおさら困難です。

2-5.行動療法1>2-2)曝露反応妨害の回数と不安・苦痛 に書いたように、曝露反応妨害では、まず、自分からあえて不安や不快感を、ある程度、引き起こし、それを積極的に抱えるような行動をする必要があります。[1]その根拠については、精神科全般>5-1.曝露療法と情動(感情)処理理論(1) をご覧ください。

曝露反応妨害での行動の例:
今まで避けていたもの、場面に、少しずつ近づく。
さわりたくないものに、さわる。
一つさわれたら、次の物にもさわる。
その手で、自分にとって、きれいにしておきたいものにさわる。
強迫行為の一部を省いたまま、どんどん作業をする。
確認をしないで、何か所も席を移動する。

このように書くと、自分には無理、それで不安や不快感が信じられないと思う人もいるのは、無理もありません。OCDなどの精神症状を持つ人は、頭に言葉で納得させようと思っても限界があるはずです。つまり、曝露反応妨害は、実際に体験しないと、実感できない治療法なのです。

曝露反応妨害の課題を、患者さんに合わせて決めたら、それを実行し、SUDが下がるまで、繰り返し行います。強迫行為を繰り返すのではなく、嫌なものに向き合う行動を繰り返すのです。
強迫的な不安や不快感を生じない場面で、気にならないように、他のことに注意をそらすような行動だけでは、曝露反応妨害にはなりません。

2)心身の状態をモニターし、記録をつける

行動療法の課題、それを行っているときの時間、回数、感情とSUD、身体の状態、思考などを記録します。
基本的な方法では、一回の曝露妨害の中で、それらを観察し、記録につけます。
SUDであれば、開始直後は80点、5分後85点、15分後に75点、30分後に60点・・・という具合です。

自分の身体の状態をモニターすることも、欠かせません。
例:心臓がドキドキしている、肩から顔にかけて緊張でこわばっている、手に力が入り過ぎている、胸のあたりがむかむかするなど
女性で、生理の影響を心身に受けやすい人では、その期間だと、身体や感情の反応も強まることがあります。
記録は、できれば、すぐに記入した方がよく、後だと、忘れたり、記録が億劫になりがちです。

3)十分な回数・時間をかけて行う

曝露療法による馴化とは、「刺激に対する元の反応の強度が低下するか、さらには消失する」ことを意味します。[2]
一般的な曝露療法では、嫌な刺激にさらされ続けることを、主観的不快尺度(SUD)が半分以下になるまでを目安として行います。
例:車の運転中に、加害の強迫観念が生じるのであれば、気になったところに確認のために戻らないのが反応妨害で、曝露は、アクセルを踏み続け、むしろ次に気になりそうな道、駐車場に進みます。

ただし、行動を繰り返すことで、鈍くなっていくのは、苦痛のような感覚や強迫行為をしたい衝動です。「床に落ちたものをさわった手」という嫌な記憶が弱まることは困難です。そのため、行動は1回だけでなく、覚えきれないくらい何回も行っていく必要があります。

本[3]p82
「重要なポイントは、不安が解消し始めるまでエクスポージャーを続けるという、ET(曝露療法)の目標を達成できるかどうかである。」
「妥当な指針としては、最初の(もしくは最も高い)SUDs得点の50~60%の減少であろう・・・(Rosqvist,2005)」

本[4]p251
「1つの項目を実践するたびに、少なくとも苦痛度が半分に減るまで、あらかじめ決めておいた状況やイメージと向き合ってください。」
「苦痛度がはっきりと低下するまで、一定の状況やイメージに対する実践を繰り返しましょう。「毎日、最低1時間から2時間は実践してください。」

本[5]「エクスポージャーである(Westen, Novotny et al.,2004)。その原則は、時間と頻度を十分にかけること(最低でも30分以上。問題によっては2~3日)」。
・苦痛度(SUD)が減らない場合、何らかの強迫行為を行っていて、きちんと曝露を行えていないことが考えられます。

本[4]p199-200には、
1.儀式行動をしないと決めることは、自分の不安と正面から向き合い、儀式行為をしない苦痛から自分を守ることをやめると決意することです。必要なら、あなたは進んで不安になるでしょう。・・中略・・不安から逃げるのではなく、むしろ近づいていかなければならないのです。

感覚は、最初は新鮮だけれど、時間とともに新鮮味が薄れていく性質があります。
おいしいものでも、食べきれないほど食べていれば、だんだん嫌気がさしてくるのに似ています。曝露反応妨害によって、十分な時間を嫌な感覚を抱え続けることで、次第に感じられ方が鋭さを失い、強迫衝動の勢いが次第に減っていきます。

4)反応妨害を徹底させる

課題に取り組んでいるように見えて、内心では、頭の中で不安を打ち消すような呪文を唱えていたり、行動療法を終えたら思いっきり手を洗えばいいなどと考えていては、反応妨害は不十分になります。(このような頭の中の行為は、森田療法では「はからいごと」と言います。)
侵入思考は、思い浮かぶもので、それは思い浮かぶままにします。しかし、頭の中の強迫行為も反応妨害します。

初回の曝露反応妨害では特に、できれば治療者と一緒に時間をかけて行えると理想ですが、日本の医療機関では、それだけ十分な時間が割けないことが多いです。そのため、ホームワークで、課題に取り組むことを補うといいのです。

・思考停止、思考中断法は効くか?・・・強迫観念や強迫思考を、振り切るために、治療者が大声を上げたり、手首の輪ゴムをパチンと鳴らしたりして、中断を強行する方法です。これは、強迫症状に流されないように、自分で気づくきっかけになる場合もありますが、根本的な解決にはなりにくいというのが、よくある説のようです。[6]

5)強迫観念と闘わない

「強迫観念が現れだしたと感じたら、逆らわないでください。強迫観念を迎え入れて、そのまま放っておきましょう。強迫観念を受け入れたのですから、それを消すために闘う必要もありません。 つまり、強迫観念を受け入れることが、儀式行動(強迫行為)を起こしたいという強い衝動を消し去ることになるのです。」[4]p124-125
これは、森田療法でいうあるがままです。逃げも、打ち消そうともしません。
・「強迫観念のパターンを変えたければ、たった一つ「強迫観念と闘わない」ということを覚えておきましょう。」[4]p160

[3]1回の曝露反応妨害の後

曝露を終えても反応妨害を続ける:
曝露を終えても、通常は、もやもやした衝動や、中途半端な感じは、ゼロにはなりません。ゼロにならなくても、もっと強迫行為をしたいという思いが残ったまま、もしくは振り切って、次の行動に移るという感じです。

曝露療法の後の行動は、家事でも、音楽を聴くでも、勉強でも、歩くでも何でもいいのです。 病気ではなかった頃に比べて、効率が悪く、半分もできないかもしれませんし、楽しめないかもしれません。しかし、なるべくそれを行います。

そのような他の行動が難しいようであれば、まだ曝露か反応妨害が十分でないということなので、再び曝露反応妨害の基本を踏まえているか見直します。

2)続ける

強迫症状を克服するためには、ホームワークとして、ほとんど毎日、曝露反応妨害法の課題を行う必要があります。
課題が1回できたら、3日続けます。
そして、1週間、3週間と続けることを目指します。
しかし、週3日課題を行って、あとの4日は今までの強迫行為をするみたいに、やったり、やらなかったりでは、効果が現れにくいです。

・ホームワークで行うと、家族がいるので、課題がやりにくい場合があります。ただ、家族への巻き込みへの対策は、治療効果を得るには、優先順位が高いです。そのため、それらの問題も、治療者と相談して、課題を調整するといいでしょう。

・本[4]p217で、(曝露反応妨害法を実践していく過程で)「自分の強迫観念がいかに不合理であるか、必死になって苦痛を避けようとするのがどれだけ意味のないことであるか、そして、最悪のシナリオが実現することはほとんどありえないということに、だんだん気づいていきます。」
と書かれていて、こういう体験もなくはないのですが、OCDでの強迫観念は、深刻な病気になる、忘れた頃に罪がばれて逮捕されるというように、悪いことがすぐに起きないものである人も多いのです。しかし、その場合でも、適切な曝露反応妨害の課題を設定すれば、自分が強迫行為に駆り立てられる衝動の強さ、強迫観念の重要さが次第に薄れていきます。

3)うまく行かない場合

曝露か反応妨害のポイントを踏まえずに、どこか間違った方法をしている可能性があります。自分では、どこが間違っているかわからない場合は、専門家を探して、相談してください。

参考

[1]Foa,E.B., & Kozak,M.J. (1986). Emotional processing of fear: Exposure to corrective information. Psychological Bulletin, 99(1), 20–35.
[2]Eelen, P., & Vervliet, B. (2006). Fear conditioning and clinical implications: What can we learn from the past? In M. G. Craske, D. Hermans, & D. Vansteenwegen (Eds.), Fear and learning: From basic processes to clinical implications. (pp. 17–35). Washington, DC US: American Psychological Association.
[3]ティモシー・A・サイズモア著「セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック」創元社2015年
[4]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士(片山奈緒美訳)「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE
[5]原井宏明「対人援助のための認知・行動療法」p4
[6]スタンレイ・ラックマン著、監訳者作田勉「強迫観念の治療」世論時報社(2007)p23