著者:有園正俊 公認心理師
ショックを受けたり、ストレスを感じることは誰にでもあるものです。
そのようなときに、精神や身体の調子がいつもと違うと感じることがあります。
通常は、一過性で、しばらくすると、自然に回復します。
ただ、時には、なかなか回復しないときもあるものです。そのようなときに、対処の参考にしてください。
目次
[1]ストレスとは
[2]主なストレッサー
[3]ストレスによる不調と症状
[4]ストレスに耐えられる容量のイメージ
[5]対処
[1]ストレスとは
次の3つに分けて考えられています。[1]
ストレス・・・生体に有害な影響を与えるもの(ストレッサー)にさらされたことで生じる変化(ひずみ)。その感覚、感情を認識すること。
ストレッサ―・・・ストレスをもたらすもの。思うようにならないこと全般です。自分の外からのものと、中からのものとがあります。
ストレス反応・・・ストレスによって、心理、身体、行動に表れる反応。
[2]主なストレッサー
自分の外から:
人前で大きなミス、失敗をしてしまう
対人関係のトラブル、いじめ
危険、恐ろしい出来事、事件、災害に出合う
食べ物・収入など必要なものを得ることが困難な状況にいる、
環境(騒音、温度・湿度が著しく高いか低い、悪臭、感染症が流行っている・・・)、
自由の拘束(勤務時間が長い)、
大事な人・物の喪失・・・など
自分の中から:
病気、痛み、何かの行動が思うようにできないこと・・・など
ストレスがゼロと言うことはないのですが、多すぎると、心身への影響も増え、自然に回復するのが難しくなることがあります。
[3]ストレスによる不調と症状
1)緊急の事態(災害、事件、危険など)での反応:
緊急時に、すぐに逃げたり、戦ったり、守ったりできるように心身が反応することは、人を含め動物に必要な反応です。=闘争・逃走反応(fight-or-flight response)
このような反応は、通常、時間が経てば、自然に回復していきます。自然回復の力をレジリエンスといいます。
問題なのは、
2)ストレスの大きい出来事が繰り返され、続く場合
3)出来事が済んでも、ストレス反応がなかなか治まらない場合
です。
そのような場合、精神や身体にさまざまな不調、症状が現れることがあります。
不調・症状の例:
次は、ストレスや抑うつに関連した精神疾患の診断基準を参考にしました。
感情:
不安、恐ろしい
憂うつ、落ち込む
悲しい
罪悪感
イライラする、怒りっぽくなる
ピリピリした警戒感
意欲がわかない、億劫
動揺しやすい
考え:
嫌な場面、言葉が頻繁に思い浮かぶ
物事がうまくいかないように思える
悪い方に想像しがち
人が自分を悪く思っているような気がする
物事に集中できない
頭が働きにくく感じられる
自分に価値がないと考える
死にたくなる
体、感覚:
周囲からの音、人の声に敏感になってしまう
ちょっとした変化にも警戒してしまう
食べてもおいしく感じられない
睡眠障害(眠れない、寝すぎなどの)
ドキドキ(脈拍、血圧)が増す
息苦しさ
疲れ
肩こり
頭痛、めまい
腹痛、下痢
行動:
人と会うこと、外出、何か実行・決断することを避けたくなる
ひきこもる
飲酒、食事などの量、時間が増える
特定の人に頼って安心を求める行為が過剰になる
これらは、いけないとは限りません。
ただ、まず自分の中にあると、気づくことが大事です。
・ストレスが強い状況にさらされるづけていると、精神的な余裕が減り、ある方向にばかり目が向き、それ以外の面に気づきにくくなってしまうことがあります。
・不調・症状の原因は、ストレスだけとは限りません。遺伝的な要因、身体の病気・ケガ、妊娠・出産のようなホルモンの変化、薬物・アルコールなどの物質がきっかけとなることもあります。
[4]ストレスに耐えられる容量のイメージ
ストレスを抱えられる容量(ストレス耐性)は個人差があります。
ストレスを抱えすぎて、精神的な余裕が減ると、心身の症状となって表れます。
脳の中で、何らかの働きが減っていると考えられますが、そのイメージは下図のコップの水に例えられます。
[4]対処
次の中から、できそうなことを試してみてください。
1.精神科、心療内科も相談の選択肢に
ストレス症状や、精神疲労(中枢性疲労)は、通常は自然に回復します。
しかし、1、2週間かかっても、自然に回復しない場合や、これまでの経験とは明らかに違うと自覚した場合は、精神科、心療内科、精神保健相談などの専門家に相談してください。
医療機関や相談窓口に行きづらいようでしたら、次の周囲で信頼おけそうな人でもいいです。
2.信頼できそうな人に話してみる
周囲の信頼できそうな人に話すことで、自分だけで抱えていた問題を外に出して、新たな気づきや解決策が得られる場合があります。特に、対人的な問題がストレッサーの場合は、力になってくれるかもしれません。
しかし、相手が、相談内容をどの程度、理解してくれるか、秘密を守ってくれるかによるので、相手の反応を見ながら、徐々に内容を話していくといいと思います。
また、自分のストレスや不安を解消するために、周囲の人に要求を強いたり、迷惑をかけたりするような行為は、かえって関係を悪化させてしまうことがあります。
3.病気、経済面など減らせそうなストレスを探す
何らかの持病、お金の問題も、ストレスをもたらします。
その中で、通院や返済方法などで、改善しやすいものから、改善していき、ストレスをもたらす要因を少しでも減らすといいです。
ただ、経済的に自立ができていない人は、できるだけ自立を目指すことが前提です。返返済の計画なしで、家族に金銭を一方的にもらうことは、依存的に問題となることがあります。
4.休憩、休日、睡眠(夜)を適度に取る
ストレスが強いときは、精神的な疲労もたまりがちになると思われます。
睡眠には、起きているときに疲れた脳神経を修復する働きがあります。睡眠中に、脳細胞の数を増やす(GIGAZINE[2,3])ことがわかっています。そのため、精神的につらい状況の時は、できるだけ睡眠時間を確保してください。
5.できれば昼夜逆転しない
深夜の仕事のためにどうしても夜に眠れない人以外は、昼夜逆転しないことをお勧めします。
心身には、睡眠、食欲と消化など24時間の概日リズムで活動している部分があり、精神的にも衝動、感情などをコントロールすることがむずかしくなってきます。
そのため、太陽光のある日中に活動して、夜間に眠るのが、心身への負担が少なくなります。午前中に起きたら、カーテンを開けて、窓際で外の明るさを感じるか、外出するといいのです。参照:6.光、運動とセロトニン)
6.外に出る。適度に体を動かす。
運動をすることで、思考や感情に関わる重要な神経伝達物質セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが増え、脳の神経細胞同士のつながりも増えることがわかっています。[4]
7.インターネットの検索はほどほどに
インターネットで、気になることを調べる人いると思いますが、ネットにはいろいろな情報があり、否定的であったり、根拠の怪しい情報にふりまわされてしまうこともあるので、あまりお勧めしません。
専門家が書いているなど、根拠が確かそうな情報に留めて、ネットだけでなく、実際に出合える人にも意見を聞くといいかもしれません。
8.嫌な考え・感情をなくそうとしないで、他の行動をする
精神状態が不調なときに、嫌な考えや感情が頭によぎりやすくなります。しかし、それをどうしようか考えても、将来を否定的に考えてしまったり、過去の出来事を思い出して悔んだりして、どうどう巡りをしてしまいがちになります。
頭の中の考えや感情は、コントロールが難しいものです。そのような考え・感情をなくそうとすると、かえって思い悩んだり、つらくなってしまいます。
そのような考え・感情を、しばらくそのままにして、注意を他に向けたり、手足を動かして、他の行動をするようにしていけるといいです。
9.なるべく今、今日のことに注意を向ける
あえて「今」「今日できること」を、少しでもいいので、実行していきます。
以前と比べれ、効率が悪くても、比べないでください。
まず、状態を起こす。着替える・・・。
また、「今、できること」は、家事、仕事、学業に限りません。
そのような活動だけでなく、部屋の中の物や壁を眺める、外に出る、散歩する、空を見たり、鳥の声に耳を済ませても、嫌な考えから少し・離れることができます。
そのような「今」に注意を広げるために、4.マインドフルネスが役に立ちます。
参考:
[1]熊野宏昭「ストレスに負けない生活」ちくま新書2007
[2]睡眠は神経パルスの伝達速度向上に重要な脳細胞の数を増やすことが判明 – GIGAZINE
[3]Tononi G, Cirelli C.Sleep and the price of plasticity: from synaptic and cellular homeostasis to memory consolidation and integration.Neuron. 2014 Jan 8;81(1):12-34. doi: 10.1016/j.neuron.2013.12.025.
[4]ジョン・J・レイティ[著]「脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方」NHK出版(原著2008)