2-2.強迫症での診療の流れ

著者:有園正俊 公認心理師

[1]標準的な診療の流れ

強迫症/強迫性障害(OCD)は、精神疾患なので、まず精神科で医師による診療を受けることが必要です。
日本では、医師しか病気の診断ができず、公認心理師などは診断が認められていないためです。
最初は、地域の精神科などの診療所、クリニックに受診し、相談してみることをお勧めします。
3-1.どこに受診すればいい? 3-2.医療・心理施設リストのページも参考にしてください。

初診・・・患者さんがどのような精神的な問題で困っているかを聞きます。
その問題に関連した状況を調べるために、
心身の様子、他の精神疾患がないか、
関連した生活の状況、
これまでの生育歴、病歴、家族関係、対人関係などを聞きます。

(医師による)診断
強迫的な症状とともに、他の精神の疾患を併存している人も少なくありません。
また、強迫的な症状の背景に、発達的な問題があると疑われるような場合、専門的な検査をしないと確定できない場合があります。

治療方針の説明
OCDの治療として、科学的に効果があると検証された(エビデンスのある)治療法は、1)2)です。(ガイドライン[1])
1)薬物療法
SSRI のようなセロトニンに作用する抗うつ薬が中心となります。

2)認知行動療法・行動療法
薬物療法に比べ、行っている医療機関は少ないです。
一般的な強迫症への認知行動療法は、面談時間がかかるため、通常の外来診療ではできず、心理師などがカウンセリングとして行うケースが多いです。また、医療機関外の心理施設と連携して行う場合もあります。

薬物療法、認知行動療法の併用:
薬物療法を敬遠して、認知行動療法だけで治したいという声もしばしば聞きますが、それだけだと、認知行動療法の課題を達成するのが難しい人も多いです。そこで、両者を併用する治療が行われます。
薬の効果は、自動車に例えると、狭いみぞにはまってしまって出られなくなっている車をジャッキや板で持ち上げて出しやすくするようなものです。しかし、ハンドルを握って運転するのは患者自身で、専門療法での治療者は、作業を誘導するナビゲーターのような役割です。本「不安でたまらない人たちへ」[2]p281では、薬=浮き輪に例えています。浮き輪で浮いているうちに、泳ぎである認知行動療法の対処法を覚えます。

[2]より専門的な診療を探すケース

しかし、次のような事情で、最初の医療機関で、診療を長期間受けても、症状の改善が見られない場合があり、他の医療機関を探す人も、それなりにいます。

1)日本では、強迫症のガイドラインがまだ発行されていないこともあり、薬物療法が、海外のガイドラインとは、異なる処方が行われていることがあります。
2)精神科医にも、得意不得意の分野があるのと、患者から聞いた情報で把握する部分が多いため、医師によって、見過ごしている部分があって、治療がうまく進まないことがあります。たとえば、トラウマ的な体験や発達的な要因など。
3)認知行動療法は、治療者によって効果の差が大きい。健康保険が効く条件が厳しく、保険外の自費診療のことが多いです。自費診療には、条件がないので、認知行動療法といっても、いろいろな技術レベルと内容で行われていることがあります。また、高額だからと言って、患者さんの症状に合っているとは限りません。
4)家族への巻き込みは、重症で、激しい場合もあり、専門家の介入が必要な場合があります。
巻き込みの対策を、認知行動療法に含めて行う方法もあるのですが、そのような方法ができる専門家は限られます。
また、巻き込み対策として、環境調整や入院によって、家族との距離を一時的に離す方法をする場合もあります。

[3]強迫性障害への精神療法

3-1)認知行動療法/行動療法

認知行動療法、行動療法は、いずれも精神療法・心理カウンセリングの治療法です。

元々は認知療法と行動療法とがあり、別々に発展してきました。
その後、欧米では90年代頃から、それらを組み合わせたものを認知行動療法というだけでなく、認知療法、行動療法を含めた総称として認知行動療法と呼ばれるようになりました。

認知行動療法の位置づけ

認知行動療法/行動療法にはいろいろな技法があります。

強迫症の治療で使われる主な技法:
行動療法もしくは認知行動療法で曝露反応妨害(E/RP)を含むもの(強迫症の案内板 2-4-1.以降)
それと、その他の技法(マインドフルネスなど)の併用
(強迫症への認知療法もありますが、日本ではほとんど普及していません)

3-2)森田療法

森田療法は、大正から昭和にかけて精神科医であった森田正馬が創設した神経症の治療法です。神経症とは、現在の社交不安症、パニック症、強迫症、身体症状症などです。
しかし、現在でも、強迫症の治療に森田療法を用いて、改善の効果をあげている専門家がいるのか、当方では把握できていません。

3-3)認知行動療法と森田療法の共通点

強迫症という同じ病気に効くことがある精神療法ですから、共通する部分もあります。
・実際の体験、行動を重視します。
・認知行動療法の曝露は、森田療法での感情の法則・恐怖突入に似ていて、どちらも行動に働きかけます。ただ、森田療法で恐怖突入を指導できる専門家がどの程度いるのか不明です。
・治療者によって技量に大きな差があります。
・いろいろな疾患に用いられる治療法ですが、強迫性障害での治療にくわしい専門家を見つけることが難しい。

[4]寛解(かんかい)

精神疾患の治療では、通常、 完治ではなく寛解を目指します。
寛解とは、治療によって症状が和らぎ、あるい程度安定した状態です。まだ一部の症状が残っていたり、服薬を続けながらでも、日常生活を送るには、特に問題がない状態です。

強迫性障害は、認知行動療法などの適切な治療を行えば、驚くほど改善することがあります。完治した人、過去の病気になったと言う人もいます。

再発防止のためには、できるだけ強迫症状が残っていないレベルまで改善しておくことが望ましいです。それだけ丁寧に治療を経験していくことで、強迫症状の再発防止に役立ちます。

参考

[1]原田誠一編「強迫性障害ハンドブック」
[2]Stanford School of Medicine. Obsessive-Compulsive and Related Disorders: Diagnosis. http://ocd.stanford.edu/about/diagnosis.html. Accessed August 13, 2008.
[3]John S. March (著), Daniel Carpenter (著), Allen Frances (著), David A. Kahn (著), 大野 裕 (翻訳) 「エキスパートコンセンサスガイドライン 強迫性障害(OCD)の治療」ライフサイエンス
[4]大原健士郎「新しい森田療法」講談社+α新書(2000)
[5]リー・ベアー(越野好文・五十嵐透子・中谷秀夫訳)「強迫性障害からの脱出」 昌文社
[6]ギャビン・アンドリュース他「不安障害の認知行動療法(3)不安障害から回復するための治療者向けガイドと患者さん向けマニュアル」星和書店
[7]こころの科学104 強迫 日本評論社2002