著者:有園正俊 公認心理師
認知行動療法(cognitive behavioral therapy: CBT)は、心理学を用いた治療法です。[1,2]
OCD、うつ病、パニック障害、PTSD、統合失調症など、精神科のさまざまな病気、発達期の療育、病気ではなくとも困った日常生活での問題、癖などで用いられます。
そのため、認知行動療法には、さまざまなな技法があり、それを患者さんの症状、クライエントさんの問題に合わせて、使っていきます。
患者さんが、ただ話して、専門家が聞くだけという受身の治療ではありません。具体的に患者さんと一緒にできそうなことを考えて、実際に取り組んでいきます(協同実証主義)。治療者が強制的に行うものではありません。[1]p73
目次
[1]認知行動療法モデル
[2]観察と評価(アセスメント)
[3]機能分析と心理教育
[4]対処
[1]認知行動療法モデル
症状や問題に関連した状況を、認知行動療法モデル(下図)のように考え/認知、感情、行動、身体の反応、周囲の状況の5つの領域に分けて、観察していきます。[1]p14
特に、うつ病や不安障害などで、嫌な感情にとらわれているときは、主観的な見方になりがちです。しかし、それを取り巻く状況を観察することで、主観から少し離れ、症状を自分の人格と切り離してみます。これを外在化と言います。[1]p75
考え/認知・・・考えには、記憶、イメージ・映像を含みます。また、自動的に思い浮かぶものと、意図的なものとがあります。自動的に思い浮かぶ思考を自動思考、そのうち意に反して頭に思い浮かぶものを侵入思考と言います。
感情・・・気持ちの動き、波です。自分の心の中で、水面に表れるさざ波のように感じられるものです。くわしくは、精神科の情報>1-2.感情の性質と症状をご覧ください。
行動・・・体を動かすこと、活動。(死人にはできないこと)
身体の反応・・・緊張、息苦しさ、ドキドキする、疲れる、痛み、音に敏感・・など。
人の中では、この4つがお互いに影響しあっています。その他に、その人の外の状況が関係します。
(周囲の)状況・・・その人を取り巻く状況、自分以外の人との関係です。患者さん以外の人からストレスを受ける場合もあれば、患者さんが症状によって周囲の人を巻き込んでいる場合もあります。
精神科の病気や問題となる行為が続いているということは、5つの領域の関係で何らかの悪循環が生じていると考えます。
この5つの領域のうち、
感情と、身体の反応は、直接、自分でコントロールできません。
周囲の状況は、変えられる場合が限られます。変えられる場合を、環境調整と言い、例えば、ストレスをもたらす人との関わる機会を減らしたり、職場での就業時間、勤務内容などを調整することがあります。
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認知行動療法では、意図的な考え/認知、行動で、変えられる部分を見つけて、働きかけていきます。それがうまくいくと、間接的に、感情や身体の反応に表れていた症状・問題も改善していきます。
[2]観察と評価(アセスメント)
認知行動療法では、患者さんの症状に関連した状況を具体的に調べます。=アセスメント(assessment)
患者さんの主訴となる症状、問題は、どのような状況で生じ、そのとき基本モデルの5つは、どのような状態になっているか?を、具体的に調べていきます。
方法:
・紙またはPCファイルの記録用紙を用いることがあります。その際に、感情の度合い、費やす時間のように数値化することもあります。
・患者さんが自分の状況を観察して書く方法(セルフモニタリング)と、専門家と患者さんとが一緒になって作成していく方法とがあります。
・精神症状の重症度を、尺度を用いて測定したり、心理検査を行うこともあります。
・患者さんに関わっている主治医、心理師、看護師などのスタッフからも情報を聞き、連携して行うことが望ましいです。
[3]機能分析と心理教育
アセスメントで調べた結果から、各要素が、どのように働いているかを分析する機能分析(functional analysis)をします。[1]p59-72、[2]
例1)面談前の生徒
状況=学校で、厳しい先生とこれから面談しなくてはならない
考え=「怒られたらどうしよう」
感情=不安(70%)、憂うつ(70%)
行動=他のことが手につかない
身体の反応=ドキドキする、緊張する、汗をかく
例2)混んだ電車でパニック発作が出ないか不安な人
状況= 朝、これから通勤のため電車に乗る
考え=「もし電車の中で、症状が出て、取り乱したら嫌だ」
感情=不安(80%)、
身体の反応=ドキドキ、息苦しさ、手足が少ししびれる、
行動=混雑した時間帯を避け早朝に、快速を避けて各駅停車に乗る、ドアのすごそばに立ち、いつでも降りられる位置にいる、
精神的に悩ましい状態が、一時的ではなく、いつまでも繰り返されるときには、これらの5つの間に、何らかの悪循環が起こっていないかを調べます。
何らかの意図的な行動・考えをすることで、一時的でもすぐによい感情・感覚をもたらす結果が得られると、その行動は繰り返されやすくなります。そのような意図的な行動・考えが増えることを強化と言います。
また、ある意図的な行動・考えによって、すぐによくない結果が感じられれば、その行動・考えの頻度減ります。それを消去と言います。
この強化・消去が起こっていないかを調べます。(参考:強化・消去については、強迫症の案内板>2-5.行動療法1 曝露反応妨害の基本と目標設定で、解説しています。)
機能分析した内容は、患者さんと共有していきます。このように症状に関連した状況と、それに応じた認知行動療法の技法について学ぶことを心理教育と言います。
[4]対処
機能分析でわかった内容から、望ましい行動に変えたり、考え方の癖に気づく対処法を系統的に組み立てます(ケース・フォーミュレーション)。対処法は、症状の内容や重症度によって異なります。この作業も、患者さんと治療者と一緒に考え、実行していきます。
4-1)軽度の場合
誰しも、不安や嫌な感情が強まることはあるものです。そういうときは、それが反映した考えも思い浮かびやすくなり、行動にも反映されやすくなります。
しかし、感情、侵入思考は、直接はコントロールできません。
むしろ、侵入思考・感情を、追い払おうとすると、かえって気になり、その頻度や苦痛が増す性質があります。考えることで、今後に役立ちそうな解決策が思いつくのであればいいのですが、嫌な考えな考え・感情にとらわれ、ぐるぐるしてしまう(反芻)と、苦痛になってしまいます。
参考:1-4. 嫌な考えへのとらわれ
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嫌な思考や感情が思い浮かんでも、それを追求しないで、放っておくと、時間が経てば、感情は鋭さを失い、軽減していく特性があります。
逆に、感情がいつまでたっても治まらない場合、何らかの反応した考え・行動をしているということになります。
認知行動療法では、その反応した考え・行動で不適切な部分を見つけて、変えていくことを目指します。
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対処の例:
1)通常、嫌な思考や感情が思い浮かんでも、何もしないで放っておくのは難しいため、何か他のことをします。家事でも、ただ景色を眺めたり、体を動かしたりするようなことでもいいのです。
そのために、マインドフルネスを用いる方法もあります。
始めから、うまくできなくてもいいので、いくらかでも、できればいいくらいに思って、繰り返していきます。そのようにして、思考にとらわれないでいられた時間や、嫌な感情の度合いを数値で記録します。そして、実行しているうちに、徐々にその値が改善してくるといいわけです。
2)他のことをするといっても、嫌なことを避けるための行動になっていると、それも悪循環になりかねません。嫌なことを避けずに、難易度の低いことからでいいので、段階的に取り組む方法があります。
3)睡眠のリズムが乱れ、昼夜逆転をしていると、精神症状のコントロールに影響します。その場合、できるだけ、夜の暗い時間に寝て、昼の明るい時間に起きる行動を目指します。→対処法:健康の情報>2.精神バランスの取り方、7.セロトニン神経と光・運動・食事のページ
4-2)独力での改善が難しい場合
精神症状の程度が、ある程度以上、重くなるか、長期化すると、独力での改善はむずかしくなることがあります。そのようなときは、精神科で相談することをお勧めします。
精神科の病院・クリニックで、カウンセリングとして認知行動療法を行っている施設があります。しかし、病院・クリニックでは、薬物療法のみの場合、外部のカウンセリング施設に、紹介もしくは併用す方法があります。
また、カウンセリングを行ってる施設でも、認知行動療法を行ってるところと、そうでないところがあるので、施設にお問い合わせしてください。(→参考:4-2.精神療法・心理相談を受けるには)
認知行動療法には、いろいろな技法があるので、治療者の考えや患者さんの状態によって、具体的にどのような技法を行うかが異なります。
・うつ病などに用いられる認知再構成、行動活性化。
・不安など嫌な感情への敏感性を治療していく曝露療法。
・現状を受け入れ、今に注意を向けていく技法(弁証法的行動療法(DBT)、ACT、マインドフルネス)
・対人関係の問題やコミュニケーション方法に働きかける技法。
精神疾患で認知行動療法が適応できるものには、治療マニュアルが出されているものもあります。
厚生労働省>心の健康のページに、うつ病、不安障害、強迫症、PTSDなどの治療マニュアルが載っています。
参考
[1]下山晴彦、神村栄一[編](2014)「認知行動療法」放送大学教育振興会
[2]下山晴彦[編](2007)「認知行動療法 理論から実践的活用まで」第2部第4-7章金剛出版