2-9.確認強迫タイプ

著者:有園正俊 公認心理師

[1]確認強迫でのケースフォーミュレーション

確認強迫のタイプでよく見られるケースを、認知行動療法モデルに当てはめてケースフォーミュレーションをすると、次のようなです。

確認強迫が起こる主な状況(トリガー)
1)ある場所を離れるとき
(戸締り、火の元、落し物、電気のスイッチを切る、忘れ物・・が気になる)

2)自分から物が離れるとき
(提出する、メール・郵便を出す、ゴミを捨てるとき・・・それらに何かミスがないかが気になる)

3)不完全が気になるとき
(商品にわずかでも欠陥がないか、汚れがついてないか・・・)

注:不潔、加害、縁起など他のタイプの強迫観念の人でも確認の強迫行為をすることはあります。

行動強迫行為)
何度も見直す、
凝視する、
また戻って見る、
強く閉めたり、握ったり、ガチャガチャする(ドアノブ、ふたなど)
今まで見ていなかったところ(机の下、細かいスミ、裏面など)までチェックする
(作業を)やり直す
大丈夫だったか他の人に聞く
メモや写真で記録する

考え/認知強迫観念)

①自分への被害→自分のミスによって、
何かとても悪いことが起こってしまうかもしれない、
大切なものをなくしてしまうかもしれない
と過剰に心配して、それを避けたくなる。

②他人への加害→自分が関わったことがきっかけで、
誰かに被害や迷惑を与えてしまうのではと過剰に心配し、それを避けたくなる。
③不完全、戸惑いの恐怖→(いくら確認をしても)不完全や、十分でない感じがいつまでもしつこく続く、そして、どうしたら戸惑い、苦痛をもたらす。

例えば、カギを閉める場合、何度繰り返しても、確かに閉まったたという感じ、ミスをしていないという自信が持てず、また確認したい衝動に襲われます。

感情
不安、焦燥感、不確かでもやもや、自信がない

身体感覚
緊張。目で凝視するなどして、顔面から肩にかけてがこわばります。
それを続けていると疲れます。

[2]確認の特徴

1)記憶と疑い

確認を繰り返すほど、「さっきやった」という短期記憶に自信がなくなります。[5]
問題が解決したという感じがせずに、何か問題が残ってしまっているように感じます。
そして、何回もやっていると、どうすれば十分なのか、何回目が正しかったのかわからなくなることがあります。

自分のやった行動が、これでいいのかと疑う。
→「もし・・・ならどうしよう?」というような不安な考えが、頭によぎる。
このような考えが、意識に多くよぎるほど、さっきやった記憶が、意識から追いやられる。→さらに自信がなくなる。

確認強迫で、記憶が薄れるしくみ

子どもの頃、漢字を書く練習で、同じ字を何度も書いているうちに、字が正しいか感覚的にわからなくなった経験はありませんか?それに似ていて、何度も繰り返していくうちに、同じ形のものでも認識がおかしくなることがあります。

患者さんの中には、若年性認知症なのではと心配する人もいますが、確認強迫では、強迫に関係ない場面では記憶に問題がありません。参照[3]

2)凝視すればするほど、きちんと見えた感じがしなくなる

電気のスイッチ、照明、ガス器具のスイッチなど、消えているはずなのに、それがうまく認識でない感じがします。
何かきちんとできていない感じがして、さらに凝視をしたり、また見たくなります。
これは強迫症状が起きているときだけの問題で、それ以外の場面では視覚に問題がありません。

写真1 普通のときの視野

戸締り以外の場面では、緊張していないので、普通に見られる

写真2 強迫行為中の視野

同じところをずっと見続けていても、見え方が、どこかぎこちなくなって、すっと頭に入ってこなくなる

例えば、強迫行為で集中している部分(中心視野)しか目に入らなくなり、全体の見え方がぎこちない感じになります。そして、それがすっと頭に入ってこない感じがします。
そのため、見過ごしたものがあったのでは?本当に大丈夫なのだろうか?と、さらなる疑念と嫌な感情が生じます。そのため、強迫行為をしたい衝動に駆られます。

3)鍵閉め、電気のスイッチ、ガス栓を閉める・・・行為自体は、簡単。

例)家に入る時のカギを開ける、電気のスイッチを入れる、車を発車させるときは、簡単のはず。単にその逆の行為なだけ。
外出のときに不安がある人でも、帰ってきて部屋のカギを開ける場合は、簡単に開けているのでは?

出かけるときは、「もしも***になったら・・」という強迫観念が伴うから、 簡単な作業が、難しいように感じられます。 あっさりでは、まずいように思わせているのは、OCDのせい。

戸締りは、シンプルでいい

4)本当にミスをしたときはわかりやすい

確認強迫の人が、もし実際に火をつけたままにしていたり、鍵をかけないでいたら、すぐわかるはずです。しかし、頭の中では、「うっかり気づかない」がありえそうに思えてしまいます。
また、本当に落とし物、忘れ物をしたときは、何を落としたか忘れたかがわかるものですが、確認強迫の場合、「何かをなくしてしまいそう」というように、対象となる物が漠然としています。

また、注意欠如障害(ADD)などのために、注意が他に向いてしまうと、それまでの記憶が忘れてしまう度合いが強いために、ミスに気づきにくい人はい

5) 責任感とプレッシャー

大人では、自分の責任と考える範囲が過剰で、その責任感にプレッシャーを感じて確認強迫に影響することがあります。
子どもでは、親や先生に怒られることや、人に変に思われることを、過剰に意識してしまうこともあります。

6)過去の失敗した記憶が、過剰に連想される

自分がミスした経験、何かを落としたり、張り付いてしまった経験、そのような思いがよぎって、このようなことが起こらないよう、さらに確認したくなります。しかし、その記憶をよく考えてみると、その記憶と、確認しようとしている行為とは、似ている部分があっても、関連がどこか過剰なのでは?現実には、同様のことが起こりにくいのに、連想して、不安になってしまうことがあります。

[3]対処法

1)自分の症状を知る

上記の基本モデルの内容を観察します。(アセスメント)
例:
・頭の中で、さっき見た場面を思い出して、チェックすることも強迫行為です。
・確認したくなるもの・場所(トリガー)を避けるのも回避という強迫行為です。

それらが、どのような関係になっているかを調べます。(行動分析、ケースフォーミュレーション)
その結果に合わせて、曝露反応妨害をどのような課題から取り組むかを考えます。

2)曝露反応妨害

現実曝露:
確認強迫の場合、特徴2-4)のため、実際の場面で、いつもの強迫行為を省きます(反応妨害)。
例:今までの確認の方法を変える、回数を減らす、まったくしないなど。
そのときに生じる強迫観念と感情(恐怖や記憶があいまいなもやもや感など)を自ら抱えるようにしていくことが、曝露(エクスポージャー)になります。

想像型曝露:
「火の元を確認しなかったら、火事になる」というような強迫観念は、実際に家を燃してみるわけにはいきません。そこで想像で、あえて自分が恐れている状況はどのようなことなのかを考えてみます。それを紙に書き出して、後で読み返したり、録音したものを、何度も聞いて曝露していく方法です。


・確認の場合、「エクスポージャーと儀式行動の禁止の区別もつきにくいでしょう。」p271「反応妨害が自動的に曝露になります。トリガーに出会い、確認行為を止めないと曝露にならないためです。」p237;本[2]

3)「同じ確認を繰り返すほど、確認した記憶に自信がなくなる」性質があるので、同じ動作を繰り返さない。

・確認の実験で、ガスストーブや電球の映像を見せて健常者とOCD患者の結果を比べた報告があります。「健常者でも、確認を繰り返すことによって、自分が確認したという記憶の鮮明さや細部が失われ、(おそらくその結果として)記憶への自信が低下するそうです。[5]p90

同じ動作を1回でも繰り返すと、そこで強迫のモードになってしまうため、
1回目の本番をシンプルに行い、そこに、注意をなるべく向けます。
その後の確認はなるべく繰り返さないといいのです。(=反応妨害)
カギをかける、水道の栓を閉める・・・実際に必要な動作はシンプルなはずです。
これまで確認に長時間かかっていた人は、1回で済ませたら、こんな簡単でいいわけがないと違和感があるかもしれません。
しかし、その違和感のもやもやさに曝露療法をしていきます。

4)戸締りでの曝露反応妨害のあらまし

もっと確認したいという気持ちを自ら抱えて、次にする予定の行動に移ります。
たとえば、戸締りでは、ドアを閉めたら次の場所に移動します。
そして、どこまで進めるか試してみます。
自宅を出て100m、200m・・・そこで限界かなと思ったら、また自宅に戻って、同じ方法を繰り返し行います。
このような課題では、自宅に戻ったときに確認して安心することをしないよう、反応妨害をしっかり行うことが大切です。自ら不安、不確かさ、疑念を抱えて、自宅から離れる行動を繰り返していくことが曝露療法になります。
1回の曝露では、ドアから離れる距離をある程度伸ばして、SUDを測ったら、あとは同じ距離で、SUDが半分以下に下がるまで行い、その日の課題を終了するのが目安です。

「恐怖に直面している間は、自分の不快な考え、感情、身体感覚に注意を向けます。恐ろしい考えやイメージに思いを巡らします。恐怖を何とかしようとすることに逆らい、できるだけあるがまま受け入れます。「どうなってもいい」と唱えます。不確かな世界にいる光景に集中し、いつ何時何か悪いことが起きるかまったくわからない、不安な状態を克服することもできないなどと。恐怖をあえて引き起こすようなイメージを思い浮かべ、考えを巡らし続けます。」[1]p75

この間、どのような不安が襲っても、何が起きても「あとは野となれ山となれ」「どうにでもなれ」・・・と心から思えなくても、体を動かす行動から変えていきます。

5)焦ると逆効果

確認を早く終わらせようと、焦ると逆効果です。むしろ、1つ1つの動作は、じっくりでもいいのですが、シンプルで強迫行為をできるだけ省きます。

6)翌日以降も行う

上記の訓練を、翌日以降も何日も続け、最初のSUDが、初日の半分以下になることを目指します。1回の曝露反応妨害には、かなり時間が必要なので、初めは休日や帰宅後の夜に行ってもいいです。

7)独力で無理なら確認強迫に詳しい専門家に相談を

戸締り以外の他の確認強迫への、曝露反応妨害でも、基本は同じで、患者さんが確認をしたくなる個々の場面に応じて、課題を設定していきます。
この患者さんごとに、基本を当てはめていく技術が、行動療法の専門家でも経験がいります。独力での改善が難しい人は、OCDの治療にくわしい専門家を探して、ご相談ください。

参考

[1]Paul R.Munford,Ph.D. Overcomig Compulsive Checking. New Harbinger Publications, Inc.2004年
[2]エドナ・B・フォア博士&リード・ウィルソン博士著、片山奈緒美訳「強迫性障害を自宅で治そう!」VOICE(2002年)
[3]CNS Forum>Moritz S, Jacobsen D, Willemborg B, Jelinek L and Fricke S; European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience 2005; 1-5.A check on the memory deficit hypothesis of obsessive-compulsive checking
[4] Tamae E.Chansky,Ph.D., Freeing Your Child From Obsessive-Compulsive Disorder, THREE RIVERS PRESS, 2000
[5]原田誠一編「強迫性障害治療ハンドブック」金剛出版(2006)