1-2.感情の性質と症状

著者:有園正俊 公認心理師

不安、悲しみ、喜び、いろいろな感情(情動・気分ともいう)があるものです。しかし、嫌な感情のときが多いと、苦しくなってしまいます。精神科の病気では、そのような感情の異変に悩まさられます。このページでは、感情が、どうなると病気・症状なのかを解説します。

目次
[1]感情・情動・気分とは
[2]感情と考え・欲求・感覚との区別
[3]感情・情動の特徴
[4]どういう場合が病気か?

[1]感情・情動・気分とは

日本語では、感情と、そのときに思い浮かぶ考えは、気持ちとして、区別せずに用いることがあります。しかし、心理学では、言葉、考え、映像のような、頭の中に実体が思い浮かぶ考えと、実体のない感情とを区別します。感情は次の図のような短い単語で表せられる、自分の中の気持ちです。
例:うれしい、悲しい、怖い・・・
オノトマペ・擬音でも感情を表す言葉があります。
例:ウキウキ、ざわざわ、イライラ、モヤモヤ、ぞっとした、どよーんとした・・・

いずれも水面に表れる波のように心の中(意識)で感じられる動き、波です。波なので、時間とともに動いて、変化します。
感情・・・不安、恐怖、喜びなど、いろいろな心の動きを含めた言い方です。
情動・・・心に漂ういろいろな感情の動きの総称です。しかし、どちらかというと重い感情に使われることが多く、喜び、のんびりした軽い感情では、通常、情動という言葉は使いません。
気分・・・長い時間に漂うものを指すことが多いのですが、恐怖や怒りのような激しい感情には、あまり用いられません。
ただ、いずれも明確な定義はないようです。
英語だと、感情・情動がemotion、気分・感情がfeeling、気分・機嫌がmoodと訳されます。

感情の車輪(Emotions Wheel)

上図は、感情の車輪などと呼ばれ、カウンセリングで、患者さんの感情が、どれに近いかを知る道具として用いることがあります。
(上図のような具体的な感情を表す言葉は、日本語だと、感情とはいっても、情動と呼ぶことは一般的ではないようです。

感情は、快(気持ちいい感情)、不快(嫌な感情)の2つに、大きく分けることができます。快の刺激には、求めたがり、近づき、不快な刺激には、避けたくなります。

恐怖と不安の違い:
恐怖・・・心身に直接、危害が及びそうに思えるときの感情です。
例;戦争、事故、刃物、心霊・・・
不安・・・将来の結果がわからない段階で、悪いことにならないか気になるときの感情です。
例:試験や合格発表前、重い病気にならないか?、人前であがらないか?・・・

[2]感情と考え・欲求・感覚との区別

・感情と、考え・記憶、欲求、身体感覚は、お互いに影響し合います。これらの区別を、あまり意識していない人も多いと思いますが、その違いは次のようです。

考え・・・短い言葉から、複数の言葉の文章で表せるものまであります。短い言葉でも、動詞、目的語、主語が省略されていて、それを補うと文章になる場合もあります。評価、価値、疑問などを表す言葉は、考えに含まれます。

例:「なんで?」「絶対無理」「だめだ」

欲求・欲望・・・「**したい」という気持ち、衝動です。「快」の感情を求めるか、「不快」な感情をなくしたいときに生じます。

欲求と、感情とは、連動していますが、区別します。

例:寝ていたい、避けたい、一人でいたい

(身体)感覚・・・例:喉がかわいた、お腹が空いた、(胸が)気持ち悪い、足が冷たい

考えと感情の区別が難しい言葉・・・言葉に、いい悪いという評価や理念が含まれていて、それに感情が伴う言葉です。

例:罪悪感、責任感、後悔、劣等感、達成感、優越感、

英語だと、考えるはthink、感じるはfeelで、区別されるのですが、日本語での「思う」「感」という言葉は、その区別が明確ではなく、感情と考えをいろいろな組み合わせた言葉が作れるためです。

[3]感情・情動の特徴

・感情は、自分の中のものしかわかりません。他人の感情が、表情、態度、涙、言動などに表れることはありますが、その人の感情を直接、感じることはできません。つまり、感情は、主観的なものです。

・感情は、心の波なので、時間とともに変化します。
強い感情が起こっても、通常は、放っておけば、時間とともに、その強さが和らいでいきます。

[4]どういう場合が病気か?

精神疾患にはいろいろな病気がありますが、診断基準によると概ね次の項目に当てはまる場合に病気が疑われます。

・苦痛な感情が、なかなか治まらない。(以前ならば、治まっていた期間を過ぎても苦痛が続いたまま)
・強い感情が起きやすく、それに振り回されてしまう。
・感情の強さや不安定のために、日常生活・睡眠や身体の健康・対人関係に支障がある。

病気になるまでの経過:
強いストレス、精神的に辛い状況(いじめ、DV、事件の被害、受験、貧困、生活の不安定)に、襲われると、嫌な感情が生じます。

ストレスの衝撃が強すぎた、もしくはストレスが何度も繰り返され長期間、続いた

警戒心が増す。
そして、「これ以上、ストレスが来たら、耐えられない」「もっと悪いことが起こったらどうしよう」という考えもよぎりやすくなり、以前は、気になっていなかったことでも、悪い方にとらえがちになってしまいます。
このような体験が、子どものときの人もいれば、大人になってからの人もいます。

嫌な感情が増して、精神的に追い詰められるタヌキ君

そのような状況が、一時的ではなく、長く続く場合、精神症状(病気)と言えるかもしれません。できれば専門医にご相談ください。

病気になると、他の人は恐れていない状況でなくても、脳の中で嫌な感情を敏感に強く感じてしまうとがあります。
つまり、上図のタヌキ君には、断崖絶壁に感じられても、他のタヌキには、余裕のある場所に見えるような感じです。精神疾患になると、そのような錯覚を感じさせることがあります。

うんちく

・脳科学辞典によると情動は、生体に入力された感覚刺激への評価に基づいて生ずる
生理反応(自律神経系、免疫系、内分泌系)
行動反応(接近、回避、攻撃、表情、姿勢など)
主観的情動体験
の3要素からなる。つまり、
出来事・記憶感情+身体内(生理)反応外見の反応(表情・態度)行動

参考

脳科学辞典
野村理朗「情動」
田積徹、西条寿夫「快・不快」